フェアリ*ティル | ナノ


て と て


" What will you do in the morning?  "


小さな身体でキャメロット城内を歩いてみると、見える景色は想像以上に違って驚かされた。これまで手が届いていた場所には届かないと言うことなど当たり前だ。その一方で、見えなかったもの見えるのだから不思議なものだった。
 
川沿いのベンチに腰掛けて足をプラプラとさせてみる。いつもより短い手足は、感覚をつかむまで何度かつまずいたりしそうになったのを思い出す。背中のほうから聞こえてくるさらさらと静かなせせらぎの音を数えながら、青い空を眺めていた。


「よう、モードレッド。何惚けてんだ」


何処かへ行ってきたらしく、ウィルが紙袋を片手にいくつか持っていた。よくよく目を凝らすと、ひょっこりとバゲットの頭が覗いている。買い物を頼まれたのか、それとも手先が器用なこの男の事だから自分で何か作るつもりかもしれなかった。そんなことを考えていると、隣にどっかりと座ってきたのでなんとなく一瞬体が浮いた気がしてしまった。


「ちっちゃいのは面白いか?」
「…は?ウィル、それなら君もなってみるか」
「いや、俺はいい」
「…そこでノーを即答するなら聞かないでくれ」


唐突に何を言うのかと言わんばかりに軽く目で睨むと「ちっちゃいとそんなの効かねぇ」と笑顔で一蹴されてしまった。確かにそうかもしれない。そこで、不意にぐらりと体が傾く。「ん?!」と慌てたウィルに体を支えて、ベンチからずり落ちる事は何とか免れた。頭を押さえながら礼を言うと、頭を撫でられた。

そして、思考が数秒止まる。

ウィルの服をとっさに掴んで、ゆっくりと深呼吸する。ほとんど覚えていない、そうか、と小さく呟いたのが聞こえたらしく、「大丈夫か」と敢えてこちらを見ないまま、声が届いた。


「…そうか、なんとなく…」
「どうした」
「ああ、…造られたばかりの時と、今と記憶がなんだか―…」
「混ざってるって、か?」
「そんな、感じがする」


*


花に水をやっているラーンスロットの姿が見えたので、私はなんとなくそちらへと歩いていった。知り合いらしい初老の男性と、談笑している。時々植え込みのほうを指差したり、プランターなどを見ては二人してガーデニングの計画でも立てているのかもしれない。

それでも、話をしていても気がついてくれるのはなんだかすごいな、と思う。穏やかに微笑んで、軽く手を振ってくれた。そばにいた初老の男性も、同じように微笑んでくれている。


「ラーンスロット、おじさん、こんにちわ」
「おぉう、お嬢ちゃん。こんにちわ」
「やぁ、ティタ。散歩かい?」
「うん、朝の仕事は終わったし。どうしようかなと思って」


おじさんやラーンスロットの話は穏やかなもので、植え込みの手入れをしようかと相談していた所らしい。いつも何気なく綺麗な形を保っているものだと感心していたけれど、まめに刈り込んでいるからこそこの風景は保たれているらしかった。

不意に、ぽてぽてと小さな妖精が通り過ぎた。ほわほわと笑顔を湛えてゆったり歩くのは、桃色の髪に、同じく桃色の服を着たチアリーだった。くるりんと可愛らしく巻いた髪が何だか可愛い。手を振ってみると、彼女は嬉しそうな顔をしてとことこと歩いてきた。ぴとっと足にくっついてきたので、思わずそのまま抱き上げた。


「おや、妖精のお嬢ちゃんか」
「たまに来るの?」
「ああ。どうも彼女たちは花とかが好きらしい」


他の赤や青のチアリーたちがにぎやかにどたばたと走り回っているのとは対照的に、この桃色のチアリーはどちらかというと大人しい印象だ。お淑やかなのかもしれない。フェイが色によって個体差があると言っていたから、性格もきっと違うと言うことだ。それでも似ているところはある。人懐こいので、構ってもらえると本当に嬉しそうな顔をしてくれるので、思わず釣られて笑ってしまうのだ。


チアリーと一緒に彼らの刈り込み作業を眺めていたら、不意にラーンスロットが私の方に向き直った。そろそろ休憩なのか、おじさんもはさみなどの道具を置いて、手を払っている。はらはらと、細かな葉っぱが地面に落ちていく。


「ティタ。君は怖いか?」
「…え?」
「君は、自分のことは余り気にかけていないようだからね」
「〜?〜〜♪」
「そうか、チアリー。君は楽しいか」


チアリーが小首を傾げて、私とラーンスロットを見比べている。怖い?何がだろう。そんな風には考えてはいなかったけれど、人から言われるという事は、そういう所もあるという事なのかもしれない。


「…う、上手く…、言葉にできない、かなぁ…」
「はははは。いいよ、構わない。別に君だけじゃなくて、アーサーにも同じような事を思うから…つい、ね」


穏やかな湖のように淡い、ラーンスロットの瞳の色。騎士の中の騎士とも称される彼にも、やはり思う事は少なからずあるのだろう。チアリーの手がラーンスロットに伸びていく。ふっと笑みを浮かべて、仲良く握手をしていた。


「君たちを守るために、私達はいるんだよ」


その言葉は、静かに静かに宙に溶けていく。その目はとても真摯で、問いかけたこちらが何だか居たたまれなくなるぐらいだった。どうしてそんなに清々しく、言い切る事ができるのだろう。俯いた私の頬に、チアリーの小さな手が触れた。


*


「小さいってすごいよな」
「ん?なんですか、アーサー様」
「騎士とか妖精とか、不思議だなって思ってさ。はいこれ書類書けたぞ!」
「有難うございます。でもそれを言うなら、アーサー様たちだって私たちから見れば不思議なものですよ」
「そうだよなぁ、お互いにそうなんだよなぁ」


本当に昨日のことだけれども、小さなティタは皆に問うたのだ。皆がちやほやと構ってくれるのに時々遠慮しつつ、でも時々小さく喜びながらも、皆を見上げて言ったのだ。



―じゃあ、騎士さんたちのことは、誰が守ってくれるの?



とてもとてもシンプルな問いだというのに、その場にいた誰もが声を発することが出来ずに困ったような笑みを浮かべるしかできなかった。それぐらい、誰もそんなことを考えたことがなかったのかもしれない。

珍しくニムエが小さなティタに近づいて、「ありがとう」とそれだけ言った。その一言で何が伝わったのかは分からないが、それでもティタは一先ず納得したらしい。


「(だからこそだ)」


彼らは根本で自分を道具だ物だと思っている節がある。確かに、最初に彼らを造った者の意図はそうだったかもしれない。騎士や妖精たちの製造の際に、何か命令コマンドも入れていたりするようだけれど、それは彼等自身が望んだわけではない。



―おにーちゃん?
―…ん?なんだー?
―ちょっと顔が怖かったから、呼んでみたの
―そっか、ごめんな



それなら、俺が何とかする。

正直なところ、何の根拠もない自信のような決意でしかない。傍にいたフェイに笑ってみると、彼女も微笑み返してくれた。一人では出来ない事は分かっているから、互いに協力する事ができれば、何とかなるのではないだろうか。

騎士も妖精も人も分け隔てなく暮らせたら、なんてきっと夢物語なのかもしれない。だからここにいる騎士たちにだけでも、物ではないのだと言い続けるのだ。


「とは言え、次はモードレッド何とかしなきゃなぁ…?」
「そうですよねぇ…」


そう言いながらも、新たに「次はこちらを」と書類を渡された。どうやら、午前中は必死で書類仕事をしなくてはいけないらしい。そう言えば、と思い出してカップのコーヒーに口をつけると、かなり苦くなってしまっていた。


"てとて"
Thanks title / reset∞


 ( 午前中は、何をしようか )
title / By myself.


What will you do in the morning?


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