それは、


「はい、鉄平」
「うん?」

 終礼も鳴って昼休みになった瞬間、隣にいる彼女なまえは机をぴたりとくっつけてきた。突如として差し出された包みに困惑の笑みを浮かべながら、木吉は首を傾げる。

「見て分からない?お弁当よ」
「俺にか」
「他に誰かいるかしら。アンタの退院祝いよ」
「あ、ああ〜!」

 ようやく合点がいったというように、木吉は手を打つ。その鈍い反応になまえはやや肩透かしを食らった気分ではあったが、受け取ってもらえたことに安堵した。これで次に、正直な彼の口から"まずい"という言葉が出ようものなら完全に意気消沈するだろう。
 しかし、鉄平は弁当の包みを開けようともせずに呆けていた。弁当包みとなまえを交互にじっと見る。

「な、なに?」

 その視線に耐えかねてなまえは尋ねた。それも木吉の真摯な表情を見て、再び口を閉ざす。

「……なまえ、結婚しよう」

 さしものなまえといえど、二の句が継げなかった。数秒、彼の発言を反芻して脳に届け、ようやく言葉の意味を理解する。いくら彼が"天然"と呼ばれているとはいえ、さすがにこれは何も考えていない時の物言いとは思えない。

「どうした?」
「……一応、どういう思考回路からその結論に至ったのか、聞かせていただきましょうか」
「ああ、勿論構わないぞ」

 心なしかクラスメイトの注視を浴びているように感じられるが、今は気にしている場合ではない。憎からず、退院祝いを用意するくらいには、好意を寄せている相手である。これが本心から来るのであれば当然嬉しい。
 しかし、彼の場合油断は出来ないのだ。だいたい付き合ってもいないのに、いきなり結婚とはどういうことか。

「なんていうかな、なまえに弁当をもらったときに、十年後が見えたんだ」
「は?」
「だから、十年後の俺がなまえに弁当を貰うとこが―――あ〜っと…、容易に想像できたんだよ。そういう訳で結婚しよう」
「ちょ、ちょっと待って……え?」

 予想より斜め上の回答をいただき、なまえは理解の許容量を超えた。
 なに十年後って。十年後も私とアンタが一緒にいるって?こうして、日常の何気ない風景がずっと続いて、それが結婚に繋がるっていうの?
 これは――思った以上の破壊力だった。なまえもその未来を想像してしまい、自然と頬に熱を帯びる。

「なまえ、顔真っ赤だぞ」
「だ、誰のせいだと…っ!」

 羞恥心からいたたまれなくなって、思わず声を荒げる。ところがその語尾はどこかに吸い込まれてしまった。ちゅ、とますます耳を塞ぎたくなるようなリップ音。

「ご馳走様」

 満足そうな木吉の顔が、息も触れ合うほどに近い。今度こそなまえは卒倒しかけた。

あまねく恋よ



(130202)
happy birthday for noichi (*ツ)
背景 誕生色/アザリア azalea
「特徴:温かく人を迎え入れる太陽のような心の持ち主」「色言葉:穏やか・直観力・思いやり・庶民的・心の広い」

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