ガッチャーン

とかわいらしい擬音でも誤魔化しきれないほどのけたたましい音が、厨房で響いた。ああ、やってしまった。わたしは愕然となってその場に崩れ落ちる。ファブレ家に雇われて一ヶ月、これで何度目の失態だろう。これはもはや才能と呼ぶべきだろうか。

「おやおや、またですか…」

音を聞きつけてきたラムダスさんが、いつもは紳士的な顔をさすがに顰めた。これほど盛大にやったのならばファブレ公爵…つまりわたしのご主人様である彼に報告されるだろう。そしたら今度こそわたしは路頭に迷うことになる。
しかしラムダスさんに助けてくださいとお願いする勇気すらわたしには残されていなかった。自分でも情けないと思うし、これ以上ここにいたら迷惑がかかるに違いない。

「も、申し訳ありません」

震える声でわたしは謝罪を述べる。そして急いで割れた皿の破片をかき集めた。きっとこのお皿はわたしの一ヶ月の給与よりも高いに違いあるまい。
じわりじわりと涙が溢れてくる。なんと、なんと情けないことだろう!!この呪わしい手を今すぐちょん切ってしまいたい。
ザクッ
悔しさに思いっきりたたきつけた手が破片によって傷つく。ポタポタと鮮血が流れ落ちた。ラムダスさんはさきほどよりも顔を顰めて、すぐに救急箱を持ってくるようにと傍にいたメイドに言いつける。
同情の眼差しを持ってわたしに近づいてこようとするラムダスさん、を押しのけて小さな少年が駆けてきた。

「おい、おまえ大丈夫か!!」

ぐいとわたしの手を遠慮なく引っ張る子供は、ご子息のルーク様だ。あまりにも恐れ多い言葉にわたしは言葉も出ない。面識は一応あった。食卓にお食事をお持ちする際に、度々顔を合わせたからだ。ルーク様は本当にわたしのような下々の者にも優しい言葉を投げかけてくださる。いつも笑顔で挨拶してくださる。

「…ここは危険です。お、お怪我をしてしまいます」

やっと出てきた言葉はルーク様には聞こえていないようだった。

「ラムダス、まさか、こいつを首にしたりしないだろうな?」
「しかしルーク様」
「…っ!今日からこいつは俺専属の話し相手に命じる。誰が何と言おうと俺が決めたからな」

ルーク様は強引にわたしを立たせた。そこへ、救急箱を持ったガイさんが部屋に駆け込む。困ったようにラムダスさんはガイさんを見たが、一目でルーク様が駄々をこねていることを察したガイさんは肩をすくめた。なんだかんだいってみなルーク様には甘いのだ。

「左様でしたら、わたくしからご主人様にお伝えしておきます」

そのラムダスさんの言葉にルーク様は顔を輝かせる。

「ありがとうございます、ルーク様」

涙混じりにわたしは土下座をして礼を述べた。満足そうにルーク様はうなずく。
いつか、いつか彼が誰かに否定されたとしてもわたしがけは彼の味方であろう。わたしはその日から心に固く誓ったのだった。


(101123)

長髪(子)ルークは確かにわがままが目立ちますが、優しいわがままに救われた人もいたのではないだろうか。イオン様はその点ルークの本質を見抜いていたんだと思います。

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