03


 そして、彼が語ったのは、世界の成り立ちやルークの出生、更に従者を連れ始めたルークの役割について。
 聖書を開き、ウィル司祭はそれらを、事細かに話し出した。

「セスは、ルークの一番目の従者であり、最も気を許していた相手と伝わっています。
セスとは古い言葉で、『任命された者』という意味です。武芸の聖霊“イマニュエル”の加護を授かった彼は、
まるで武神の如き荒々しさを伴いながら、魔物達を一掃していたそうです。
ライリーは、二番目の従者の洗礼名です。ライリーとは、古い言葉で『勇敢な者』という意味です。
精霊“ナサニエル”の加護を受けた彼の矢は、一切外すことは無かったと言われています。
続いて、三番目の従者となったのは、……」

 話の内容は、やがて従者達へと変わっていった。
 その話を聞きながら、ディックは少し頭痛を感じ始めていた。

「……そうして、メリリースの加護を受けたオリヴィアは、あらゆる傷や病を治す力を得たと、伝わっております。
オリヴィアとは、古い言葉で『優しき者』という意味ですね」
「……この人達は、最期はどうなったんですか」

 咳をしながら、ディックが尋ねると、ウィル司祭は小さく微笑んで、腰を曲げた。
 その穏やかな顔が、ふっと冷たくなったように思えて、ディックはウィル司祭の顔を見る。
 その表情は、悲しそうな笑みを浮かべていた。

「ライリーは聖戦の中で、レーガンから致命傷を負ってしまいました。
そして、最期の願いとして、聖剣で、自分ごとレーガンを刺すようにルークに志願したとされます。
そして、その願い通り、ルークはライリーごとレーガンを聖剣で刺し、倒すことに成功しました」

 そこで、ウィル司祭は、剣の装具をこちらに翳してきた。鈍色の光を放つ剣を見て、
 ディックは咄嗟に両手で口を押えた。突然、何の前触れもなく吐き気を催したのだ。

「そうそう。この装具は、ルークの使用していた聖剣を……どうしました」

 ウィル司祭が心配そうに尋ねて来た。
 水と桶を取りに行くという彼の横を擦り抜けて、アレクシアが駆け寄って来る。

「ディック、どうしたの? 大丈夫?」

 返答もまともに出来ず、弱々しく首を横に振ったところで、ウィルが差し出された桶に、堪らず吐いてしまった。
 朝起きてから、何も食べていないので、胃液しか出てこない。吐くだけ吐いた所で、
 アレクシアはバーズリー夫妻とウィル司祭に、再度頭を下げて、ディックを連れて教会を出た。

 教会を離れ、貸し与えられた家に近付いていくと、少しずつ体調が戻ってきた。
 ようやく玄関まで辿り着いた所で、アレクシアがその場に膝を着いて、そっとディックを抱き寄せた。

「ごめんなさい」

 アレクシアの声が、震えていた。
 彼女の泣きそうな顔や、悲しそうな声を聞くと、とても苦しくなる。

「具合が悪かったのね。気付かなくて、ごめんなさい……」
「大丈夫。今はもう、平気だから」

 大丈夫。
 安心させようとしてそう言っても、いつもアレクシアは微笑んでくれなかった。そして、決まって強く抱き締めてくる。
 それから、ゆっくりと身体を離すと、そっと頬に触れて、ようやく小さな笑みを浮かべた。

「顔色が悪いわ。今日はもう、休んだ方がいいわね」

 その笑みには、悲しげな色が滲んでいた。



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