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【A mother's appeal―ある母親の懇願―】

I'm sorry to apologize, but I can't hug you hurt.
If my existence is hurting you.
If memories with me are in chains that bind you.
Please, whether or not.
Forget about me anymore.
            ――――――――――――――

「これから、この村でお世話になるのよ」

 母、アレクシアに言われて、ディックは眼前に見える農村を見た。
 見渡す限り、青々とした草原と畑が続いている。牛や山羊が放牧されており、時折その鳴き声が聞こえてきた。
 その小さな村を見た時、ディックが思ったのは、「今度は、いつまでいるんだろう」という疑問だった。

「あんたらの家は、こっちだよ」

 歩き出した村長のバーズリーに、ついて歩いていたアレクシアが、こちらを見る。
 名前を呼ばれて、ディックも彼女の後に続いた。
 
 アレクシアと共に、ノーハーストというこの村に来たのは、今朝のことだ。
 その名の通り、北部にある丘陵の上に位置する小さな村だった。物心付いた頃には、既に町村を転々とする生活を続けており、
 何故一か所に留まることをしないのか。ディックは疑問に思うことこそすれ、それを口に出すことは無かった。

 前だけを見つめて、忍ぶように移動するアレクシアの横顔を見ると、その質問を投げかけることに、言いようのない不安を覚えたのだ。

「ディック。こちらは村長のジョン・バーズリーさんと、奥様のヘレンさん。
ご挨拶なさい」

 こんなやりとりを、何度も何度もしてきたので、もう手馴れたものだ。

「何かと、ご迷惑をお掛けすることになると思いますが、……」

 深く腰を折るアレクシアに対し、バーズリー夫妻は、手を振りながらにこやかに言葉を返していた。
 そのバーズリー夫妻には、息子が一人いるらしい。

「倅は本当に、利かん坊でしてねえ。同い年でしょうに、お宅の息子さんは、
利発そうで羨ましい限りです」
「いえ、男の子ですもの。どこも、そんなに変わりないですよ」

 舗装された道を歩く。青々とした草や花々が、両隣に茂っている。
 土が剥き出しの道は、歩くたびに、じゃりじゃりと音を立てた。そうして、バーズリーに案内されたのは、小さな家屋だった。
 三、四段だけの小さな石の階段の先に、木製の扉がある。染みのある外壁はだいぶくすんでいて小汚い。
 黒い屋根には蔦が絡みついており、築年数がそれなりにあるのだと、容易に判断出来た。

「あ、ヒューゴ!」

 空き家の掃除を手伝い、傷んだ箇所の修正をしていたバーズリーが、声を上げる。
 方々に生えていた、家周りの雑草を抜いていたディックが、少しだけ顔を上げる。
 少年が一人、少し離れた所から、こちらの様子を伺うように立っていた。
 短い頭髪は、太陽の光を浴び、黄金こがね色に輝いている。

「そんな所で、ぼうっと立ってないで、こっちに来なさい!」

 口に手を添えながら言うバーズリーに背を向けて、ヒューゴと呼ばれた少年が走り去っていく。
 雑巾を水に浸していたアレクシアが、バーズリーに尋ねた。

「御子息ですか?」
「ああ。いっつも、遊んでばかりでしてな。家の手伝いなんか、
ちっともしてくれねえんですわ。口を開けば、我が儘ばっかり」
「我が儘……ですか」

 バーズリーのその声音は呆れていたが、その中にも確かな愛情が感じられる。
 困ったような、それでいて愛おしむような笑みのバーズリーに対して、アレクシアも似たような笑みを浮かべて返す。
 それから、少し寂しそうな顔をしていた。



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