02
「ええ? オールコックに行っちまったのか?」
昼過ぎに、ようやくギルクォードに戻ってきたリアトリスは、ティナを送り届ける傍ら、遅めの昼食も兼ねてオボロの喫茶店を訪れた。
頭を抱えて、カウンターに突っ伏すリアトリスに、オボロはサンドウィッチの乗った皿を差し出しながら、小さく笑う。
「ははっ。そんなに会いたかったのかい?」
そう言いながら、オボロが果実水もおまけで差し出してくる。
それを横目で見ながら、リアトリスは溜息を吐いた。
「……ちょっとな。変な別れ方したから」
それから、差し出された果実水を一気に飲み干す。手の甲で口を拭った。
「おっちゃん、ディックはオールコックに行ったんだよな」
「うん。異変が起こってるらしいから、ちょっとね」
「じゃあ、おいらも今から行くよ」
そう言いながら、リアトリスはサンドウィッチに手を伸ばした。まるで、飲むように口に押し込んでいく。
途中、喉を詰まらせて咳き込むリアトリスに、オボロはそっと水を差し出した。慌てたように水を飲むリアトリスに、
「今から、大慌てで昼食を摂って、大急ぎで町を出ても、追いつかないでしょ」
呆れたようにそう言うオボロに、リアトリスは大きくサンドウィッチを飲み込んでから答えた。
「追いつかないなんて、百も承知だよ」
唇に付いたソースを舌で舐め取り、リアトリスは飛び降りるように丸椅子から降りる。
「リア、オールコック、いく、ですの?」
「ああ。準備を終えたら、すぐに発つぜ」
「なら、ティナも、いく、ですの」
顔を輝かせるティナは、「お出かけ」という気持ちでいるのだ。リアトリスはかぶりを振る。
「あのな、ティナ。遊びに行くんじゃねえ。それに、今回はおいらだけで行かせて欲しいんだ」
ティナがコトンと首を傾けた。
「どうして?」
実質、彼女がいると、話の骨を折られてしまうかもしれない。
話題に首を突っ込んできて、まともにディックを話す空気になれないかもしれない。そんな懸念が、リアトリスにはあった。
「どうしてもだ」
強い口調で言い聞かせると、ティナは不満そうに頬を膨らませる。それを見て、リアトリスは彼女の小さな頭に手を乗せた。
「次は、一緒に連れてってやるから」
「じゃあ、やくそく、ですの」
右手で頭に乗せられた手を握りながら、ティナが左手の小指を差し出してくる。
町の子供に教わったらしいその行為に、リアトリスは笑う。何も考えず、その小指に自分の小指を絡ませた。
「はいはい。約束な」
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