01


【The cry of a boy−ある少年の叫び―】
I'm always calling.
I'm always here. It's here.
Don't close your eyes, away your eyes.
Well, recognize the man here.
          ――――――――――――

 ル・コートに戻っていたリアトリスは、腰に手を当てて大きく空を仰いだ。
 真っ青な空には、雲一つ浮かんでいない。その見事な快晴に、額に滲んだ汗を拭った。
 月に一度のペースで、リアトリスは故郷へ足を運び、ル・コートの村を直していた。
 その成果もあり、だいぶ村は村としての景色を、取り戻しつつある。しかし、毒素は完全に抜けてはおらず、
 今だ、木々は枯れたまま朽ちており、草花は一本も生えていない。
 それでも、掘り返した土の匂いや感じる風の涼しさは、懐かしいものだ。

「リア! これ、どこ、おく、ですの?」

 手伝いを申し出てきたティナが、古い木の板を何枚も抱えている。彼女に指示を出して、
 リアトリスは村の墓地へと足を運ぶ。墓地とはいえ、ただ大きく掘った穴の中に、村人達の遺体を埋めただけの、粗末なものだ。
 まだこの土にも魔物の毒素は染み込んでいる。既に、埋めた筈の彼らの肉体は無く、骨も残っていないだろう。

 それでも、この形ばかりの墓の前で近況報告をすることが、リアトリスの癖のようなものだ。
 他愛のない話をしていたリアトリスは、ふと口を噤む。エリックやニルスとの会話を思い出した。それから、ディックのことを考える。

 混血ハーフブラッドとは、周りの環境に合わせて魔物にもヒトにもなる、異質な存在。
 あの魔将は、以前そう言っていた。ニルス達も似たようなことを言っていた。

「なあ、」

 と、リアトリスは墓標に向かって尋ねた。

「あんた達は、混血も魔物と同類だって思うか?」

 ぽつり、ぽつりとリアトリスは言葉を連ねていく。

「魔物の血が流れていたら、やっぱりそれは魔物だと思っちまうか?」

『おまえが俺の何を知っているんだ』


 あの赤い瞳は今でも鮮明に、瞼の裏に焼き付いていた。

 『どれだけヒトらしく振舞っていても、その中には魔物特有の本能は持っている』

 その言葉も、ずっと胸の奥で息衝いている。

「おいらは……本音を言えば分かんねえ。……みんな、あいつが魔物と同類だって思ってる」

 ニルスやエリックの冷たい眼差しと、明らかな敵意をリアトリスは思い出した。

「協会のみんなは、おいらに戻ってこいって言ってる。でも、戻っちまったら……」

 ディックが魔物ハンター達に襲われたことは、リアトリスの知る所では二回ある。
 どちらも、支部のあるアストワースで起こった。銃弾の雨を降らせた魔物ハンター達を思い出した。
 血を吐き出して、崩れるように膝を着いたディックの姿が、まざまざと蘇る。目の前で攻撃を受ける姿は、
 殉職した上司の姿と重なって見えた。そして、二度目の時には、より凄惨な結果になってしまった。
 ディックを守る為に、シェリーが炎で魔物ハンターの殆どを焼き尽くしたのだ。

 シェリーは、ディックを傷付ける者を決して許さない。それが魔物であろうと人間であろうと、奪おうとする者に容赦はしない。
 先日の件で、シェリーは魔物ハンターを完全に敵だと認識した筈だ。彼女が敵だと認めれば、
 きっとディックも『敵』だと認識してしまうと、リアトリスは予感していた。

「リア、どこ、ですの?」

 ティナが自分を探す声を聞いて、リアトリスは立ち上がった。墓標を見下ろして、少しだけ笑いかけた。

「暗い話ばっかで、いつもごめんな。また、来るからな」

 そろそろ、ギルクォードに戻らなければ。



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