05
クロードから離れようと、エドワードは反対側の馬車の扉を開けようとした。
怯えと焦りでもたつきながら、扉をこじ開け、転げ落ちるようにして馬車から降りる。
殆ど意地のようなもので立ち上がったエドワードは、そこで御者や馬や、魔物ハンター達の姿がないことを知った。
生臭くて、赤い水溜まりの中に肉片が散らばっている。その中に幾つかの人間の頭部を見つけ、
次にはその場に嘔吐した。両手で口を押えたが、焼けるような喉の熱と共に、腹の底から酸味のある液体が、込み上げてくる。
「――っ!」
思わず走り出した。何処でも良い、とにかくクロードから離れたい。そう思いながら、走っていたエドワードはすぐに足を止めた。
目の前に、クロードがいる。何の感情も見えない瞳が覗いていた。
――さっきまで、馬車の所にいた筈なのに!
少し離れた馬車へ目を向ける。そこには誰もいない。
「どこに行かれるのです?」
明るさを滲ませる、クロードの声が聞こえる。いつの間にか、クロードはエドワードの背後にいた。
彼はエドワードの耳元に唇を寄せてくる。体の芯から、震えが止まらない。クロードを恐ろしいと思ったのは、初めてだった。
「そちらは、スタンフィールドではございませんよ」
低いその声に、エドワードは思わず尻もちを付いてしまう。
立ち上がろうにも、腰が抜けたのか力が入らない。「おやおや」と、おどけるような声が頭上から降ってくる。
「エドワード様、大丈夫ですか? 肩をお貸し致しましょうか」
「くっ……」
手を使って後方へ下がりながら、エドワードは声を上げた。
「クロード……君は、魔物だったんだな! 何故、今になって、こんな……。
ずっと、僕を支えてくれていたじゃないか……」
「大変、申し訳ございません。エドワード様」
クロードは、困ったように微笑んだ。
「あいにく、私の主人はラスト様お一人でございます」
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