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【The disappearance of a man−ある男の消失−】
The man who was pushed down in the dark struggle desperately to return
to a place with light.
Struggle to move the limbs and somehow emerge.
But the darkness was too deep for a man with no power.
Even if it cameraman, and it struggles, it is not possible to pops it again.
He is not noticed by anyone, and disappears without knowing.
                         ――――――――――――

 湖面が激しく波打ち始めた。一気にノースの毛が逆立ったかと思えば、急に耳や尾を下げて、アベリーの後ろに回り込む。
 子犬のような声で鳴き始めた彼を、アベリーは手を伸ばしてその頭を撫でてやる。
 まるで、真冬のように気温がどんどんと落ちていくのを感じた。

「……」

 見知った気配を感じ取って、アベリーは振り向いた。セオドアの他に、何人か顔見知りの魔物がいた。
 しかし、あれほどラストに心酔している筈のドルチェット達の姿が見当たらない。

「皆様」

 その声を聞いて、アベリーは再び前を向く。この崖の先端には、燕尾服を纏ったクロードが立っている。
 彼は、いつもと変わらぬ笑みをその顔に湛え、そして、役者のように両手を広げて高らかに言った。

「皆様、よくぞお集まり下さいました。さあ、ラスト様をお迎え致しましょう」

 クロードがゆっくりと瞼を開く。緊張や喜びに彩られた緑色の瞳が、荒れる湖を見つめていた。

 湖面に浮かんでいた、黒い蛇のような靄は、やがてアベリー達のいる場所へと、
 水面を滑るように移動する。その靄は、次第に大きな魔力の渦を作り始めた。
 巨大な魔力の渦は岸部へと辿り着くと、クロード達の前で暴風を撒き散らしながら、霧散する。

 その魔力の渦の中から姿を見せたのは、精悍な顔付きの男だった。
 銀色の髪は星のように煌いており、この場にいる誰よりも、背丈は高かった。
 男がゆっくりと瞼を開ける。影が落ちる程、長い睫毛の下から覗いたのは、宝石のような青い瞳だった。
 吸い込まれそうな程、透明感に満ちたその瞳は、けれども異様な迫力で満ちている。

 にっこりと唇に笑みを浮かべたクロードが、一歩前へ進み出た。
 男の眼前に立つと、彼は左胸に右手を当てて、優雅な動作で跪く。それと同時に、燕尾服の裾がふわりと翻った。

「お帰りなさいませ、ラスト様」
「ああ。待たせたな、クロード」

 低く、艶めいた声だった。クロードは例えようの無い胸の高鳴りを覚える。
 もう一度、その声で名前を呼ばれたなら! その願いが、今、叶った。愛おしい主がそこにいる。
 幻ではなく、そこに確かに存在し、目の前に立っている。その事実は、堪えようのない喜びを感じさせた。

「おまえは、俺の為によく働いてくれた。感謝しよう」
「勿体無き、……お言葉です」

 立ち上がり、クロードはまた微笑んだ。いつもの貼り付けたような笑顔ではないことに、
 アベリーは気付いた。ほんの僅かな違いだが、それに気付くことが出来る程、一緒にいたのだと改めて感じる。
 他の魔物達が敬愛や忠誠の意思を込めて、同じように挨拶をする中で、アベリーは形だけの挨拶をした。




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