05
「でも、だれも、まちのひと、こうげき、してなかった、ですのよ」
ティナが不思議そうに首を傾げている。彼女は機械人形であったが、人に囲まれて暮らしているうちに、
その表情を学習していったのか。最近、よく人間らしい顔つきになることも、多くなっていた。
造り主の混血が、そこまで考えて作成したのかは分からない。
「なぜ、しまつ、したですの?」
「シェリーにとって、邪魔だから」
ディックはそう答えた。シェリーが邪魔に思ったから、攻撃した。只、それだけである。
彼女は、断りなく自分の領地に足を踏み入られることを、何よりも嫌うのだ。
ふうん、と頷いたティナは、また尋ねてくる。
「ディックに、とっては?」
「……」
その質問には、すぐに答えられなかった。自分にとっては、どうだったのか。
そんなことを考えるよりも先に、シェリーが邪魔だと認識したことを知り、すぐに排除することを決めた。
その為、ディックはその時怪人鳥の群れを、どう思ったのか分からない。
何も、考えていなかったのだから。しかし、シェリーを思って、排除することを決めたのなら。
それは、きっと……
「俺も、邪魔だと思ったんだと思う」
「そう」
ティナは頷いた。それを見て、ディックは続けた。
「さあ、ギルクォードに戻りな。俺もシェリーも、構ってあげられないから」
◆
オボロの店の扉を開ければ、カウンターを拭いていたオボロと目が合った。
「おかえり、ティナちゃん。思ったより、早かったね」
いつも通りの笑顔で、出迎えてくれる。
「みんな、おしょくじ、ですの」
「ああ、もうそんな時間か。ごはん、食べる?」
「たべる、ですの!」
にっこりと笑ったオボロは、思い出したようにティナを見た。
「ところで、さっき空一杯に魔物が飛んでいたね。大丈夫だった?」
「だいじょうぶ、ですの。みんな、ディックが、たおした、ですのよ」
シェリーの名前を、言ってもいいのか分からなかったので、ティナはディックの名前だけを出す。
オボロはそれを聞いて、「そうか」と顎を引いて、鍋の蓋を開けた。残り具合を確認しているらしい。
「仲間が、仕返しに来なけりゃいいんだけどねえ」
「だいじょうぶ、ですの。みんな、つよい、ですの」
「ははっ、そうだね。なら、ギルクォードの人は安心だね」
オボロの言葉に、ティナはまた笑って頷いた。
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