04


 ひっそりとした真っ暗な森の中へ、アリスは足を踏み入れた。
 しばらく舗装された道を歩いていると、眼前に広がる暗がりから、何かの気配がした。
 先程まで聞こえていた鳥の鳴き声も、いつの間にか消えている。

 やがて、その闇の中から一匹の魔物が飛び出してきた。大きさは五十センチ程。
 球状の胴体に幾本もの触手を生やし、その全てに眼球を付けた魔物だった。胴体に一際大きな目玉があったが、
 その体中にも目が夥しい程に付いている。大きな目玉のすぐ下には口があり、内側に向かって鋭い牙が生えていた。
 一度噛み付かれてしまえば、引き剥がすことは容易ではない。

 アリスは紅色の目で、ひたりとその魔物を見つめた。魔物は触手を絶えず動かしながら、
 周囲を見渡しているようだったが、不意に口を大きく開いて、アリスへ飛び掛かった。
 アリスは紅色の目でその動きをじっと見つめていたが、次の瞬間。彼女はその魔物の牙を剣で防いだ。

「……」

 アリスの右腕は、肘から先が剣へと変わっていた。鈍い銀色の光を放つ剣に阻まれ、
 魔物は彼女を噛み砕くことが出来ない。しつこく、その剣を噛み続けていたがやがて諦め、アリスから距離を取った。
 今度は素早く周囲を動き回り、背後から頭に齧り付こうとするも、その気配を感じ取ったのか、
 アリスは振り向きながら、右腕の剣を振る。再び攻撃を防がれた魔物は、ふわふわと漂いながら、アリスから距離を取っていく。
 その動きを見て、アリスは再び剣を振るった。途端、そこから鈍い光を放つ何かが風を切って、魔物に向かった。

 魔物は一瞬のうちに動きを奪われてしまった。アリスが拘束した為だ。彼女が右腕の剣を振るった時、
 剣は鞭のように伸びた。短くて鋭い、刃のブロックが幾つも連なり、それが鞭のように魔物を拘束していた。
 言うなれば彼女の剣は、切削機能付きの多節鞭のようだ。

 逃れようともがくたび、浅いとはいっても魔物の身体に傷が付く。アリスは芋虫のように蠢く魔物を見つめたまま、
 一気に右腕を引いた。途端、多節鞭は魔物の身体を容赦なく切り裂きながら、彼女の腕の中へ治まっていく。
 こうなれば、一見腕に剣が生えているようにしか見えない。

 黒い塵と化した魔物の亡骸へ近付いて、アリスは静かに膝を付いた。塵を掻き分けながら、
 左手で取りだしたのは、魔物の魔力結晶だ。しかし、色はどうにも薄い。

これでは、まだ足りない。

 アリスは立ち上がると、カンテラを掲げながら、更に森の奥へと進んでいく。

 どれだけ弱く、小さな魔物でさえ、アリスは決して見逃さない。
 その魔力結晶を手に入れなければならない理由があった。刃の付いた多節鞭を駆使して、
 アリスは視界に入る魔物を切り刻んでいく。魔物の亡骸は次々と塵へと変わり、さながら黒い花弁のように周囲を舞う。
 その花弁の中に、赤い飛沫が幾度も散った。



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