06
銃口を向けられていても、彼女の態度や表情は変わらない。人間に殺されるなど、毛頭にも思っていないのだ。
例えこちらが引き金を引いても、負けないと自負している。そのことを、リアトリスは十二分に理解していた。
初めて対面した時。この魔物が、いとも容易く、銃弾を跳ね返したこと。
そして、銃弾が貫通しても、息の根が止まらなかったことは、記憶に新しい。
「所詮その程度の間柄か」
冗談のように軽い口調であったが、そこに強烈な殺意を感じて、怯んだのはリアトリスの方だった。
思わずライフルの銃口を持ち上げ、僅かに後ずさりをする。
「ディックにとって、おまえは何者でもなかった。しかし、あいつがおまえを追って、
あの町へ赴いたことは見逃せない。少なくとも、関心を向ける存在ではあるらしい」
こちらを追い詰めるように、シェリーが近付いて来た。右腕に纏わせる青白い炎は、激しく揺らめいている。
燐のように飛び散る、火の粉が照らす彼女の顔は、まるで絵画のような、美しい微笑で彩られていた。
冷え切った声とのちぐはぐさが、こちらの心を不安に染め上げていく。
「誰にもあいつを奪わせない。惑わせない。あいつはあたしのものだ。誰にも譲らない。
誰の言葉も聞かせないし、誰の姿もその瞳に映させない。弊害になるものは、全部あたしが消し去ってくれる」
距離を取り続けていたリアトリスは、踵が壁にぶつかったことに気付いた。一瞬、後ろに目をやれば、
通路の壁に背中を這わせている。もう一度前を見ると、目と鼻の先にシェリーがいた。
青白い炎に照らされて、彼女の美しさは更に拍車が掛かっている。
背筋が凍りつくような、美しく恐ろしい姿に、リアトリスはごくりと生唾を飲み込んだ。
血潮のような赤い瞳に見据えられ、リアトリスは呼吸の仕方を忘れていた。
激しい敵意と殺意を、隠すことなくこちらに向けるシェリーに、彼は強い恐怖を感じていった。
しかし、それと同時に強い嫌悪感、気持ち悪さも感じていた。
まるで、ねっとりと重たい油の中に沈んでいくような、深い気持ち悪さを感じた。
この執着心は、異常だ。
シェリーはふっと小馬鹿にしたように、ふっと小さく笑う。あれ程の殺意や敵意が、嘘のように掻き消えていた。
こちらをからかっていたのだろうか。そう思うと、まんまと掌で踊らされていたように思えて、
リアトリスは憤りを感じた。しかし、すぐに思い直す。
彼女が紡いだ今までの言葉は、全て本心ではないのか。
こちらの恐れを感じ取り、弱い相手に本気を出すことに、馬鹿らしさを覚え、敵意を隠しただけではないのか。
すぐにまた本性を現すのではないだろうか。様々な憶測が頭を掠めていく。
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