04
しばらく玄関前で待ち続けていると、話し声が近付いてきた。顔を上げる。
右側から歩いてくるのは、まさしくイェーガー夫妻であった。クマのような体格のイェーガーと、
樽のように恰幅の良いグラニットだ。二人は大量の荷物を抱えながら、何か喋っているようだ。
「おばちゃん、おっちゃん」
声をかけると、二人は揃ってこちらを見た。そして、絵に描いたように目を丸くする。
荷物を抱えたまま、イェーガー達が走ってきた。すぐ目の前まで駆け寄ってきたイェーガーとグラニットは泣きそうな顔をする。
「リア坊!」
グラニットはイェーガーに、自分の持っていた荷物を全部渡すと、太い腕でリアトリスを抱き締めた。
「リア坊、よく帰ってきたね! 心配したんだよ!」と声を上げたグラニットは、続いて、嗚咽を漏らしながら笑った。
「おかえり」
その笑顔を見て、リアトリスは本当に申し訳なくなる。それと同時に、気恥ずかしさや妙な喜びが心を占めていった。
誰かに心配されること、誰かに「おかえり」と言ってもらえたことが、久しぶりだった。
それが、こんなにも暖かいものであることを、しみじみと感じた。
グラニットが腕を外したところで、リアトリスは照れ臭そうに鼻を掻く。
「おばちゃん、おっちゃん。……えっと、ただいま」
二人は、市場に行っていたのだという。
今日が、行商人の来る日だったことを知り、どうりで家に鍵が掛かっていたのだと、リアトリスは合点する。
テーブルを挟んで、リアトリスは戻ってくるまでのことを、イェーガーに掻い摘んで説明していた。
魔物ハンターの支部や、そこで交わした話などは出来なかったが、ディックに会ったことはちゃんと伝える。
そこで、「あ、」とリアトリスは気付いた。
「そういえば、ディックは?」
「さあ。でも、シェリーの所にいるんじゃないかい」
と、グラニットがリアトリスの前に、茶を置きながら言う。
「リア坊達が無事だったって、一人で帰ってきてからあの子、いつも町の外にいてねえ。
最近は此処にも、オボロの所にも殆どいないんだよ」
リアトリスは歯がゆそうに顔を歪めた。時計台にいるのかもしれない。イェーガーのその推理は、
あながち間違っていないかもしれなかった。ディックはシェリーのもとにいる筈だ。そしてその彼女は、時計台にいると思った。
何故なら、彼女が時計台を離れれば、この周辺を支配する魔物がいなくなったことで、それまで大人しくしていた魔物達が、
アストワースのように襲い掛かってくる筈だからだ。
なんにしても、一度時計台に足を運ぶ必要がある。極力近付きたくない場所ではあったが、
リアトリスは意を決した。気合を入れる為に茶を飲もうと、カップに右手を伸ばした。
「何かあったのかい?」
グラニットの質問に、リアトリスは緩やかにかぶりを振った。
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