04
ギルクォードのその道を、ティナは一人で歩いていた。オボロから「遊んでおいで」と言われたのである。
そうして、よく遊ぶ近所の子供達と一緒に、鬼ごっこやかくれんぼをしていたのだが、
昼時になり、彼女達が其々の家に帰り始め、ティナは一人になったのだ。リアトリスはイェーガー夫婦の手伝いに忙しく、
今日は構ってもらえない。オボロからは、「遊んでおいで」と言われたので、まだ帰れない。
なので、暇つぶしがてら、ディックとシェリーのもとへ行こうと、町の外に繋がる門に向けて、歩いている所だった。
ふと何かに気付き、ティナは顔を上げる。ギルクォードの住民も、「なんだ、なんだ」と空を見上げていた。
何体もの魔物が、空を横切っていく。大きな翼を羽ばたかせ、凄まじい速さで飛んでいくその姿は、
人とよく似ているように見えた。そのまま、その魔物達が向かう先には、
シェリーの住まう時計台があることを、ティナは知っていた。
「いっぱい、とんでいる、ですの」
ティナは走り出し、空を縦断する魔物を追いかける。
走り続けていると、門の前にいた自警団に腕を掴まれた。
「ティナちゃん、何処に行くんだ」
「おそら、おいかけてる、ですの。ディックに、あいに、いく、ですのよ」
ギルクォードの町の中では、シェリーの名前はあまり出さないように。
ティナは、リアトリスからの言い付けを、しっかりと守っている。自警団の男は首を横に振った。
「機械人形でも、危ないよ。壊されたら困るだろう」
にっこりと笑い、ティナは自警団の男の手を外す。
「そんなことない、ですの。だいじょうぶ、ですの」
男が引き止めるのも聞かず、ティナは自分で閂を外し、門を開けて外に出た。以前、ディックと歩いた道を思い出す。
一度覚えた記憶は、決して忘れない。シェリーのいる時計台までは、大人の足なら二十分程で着けるが、
ティナはそれよりも少し掛かる。ディックやリアトリスと比べて、足が短い分歩幅も狭い。
時計台まで時間を掛けて、やっと辿り着いたティナは、地面に落ちている羽根に気付いた。
しゃがみ込んで、そっと拾い上げると、赤い液体が付着しているのに気付いた。その羽根は、
ティナの目の前で塵となって消えていく。ふっと影が出来て見上げれば、魔剣を手にしたディックが立っていた。
「こんにちは、ですの」
にっこりと笑顔を向ければ、「うん」という素っ気ない返事が返ってくる。
「こんな所で、どうした」
「あのね。おそら、まもの、とんでいた、ですの。たいくつだから、おいかけた、ですの」
「退屈だったなら、仲の良い子とか、リアトリスと遊べばいいだろう」
ディックが魔剣を鞘に仕舞うのを見ながら、ティナは立ち上がった。
手に付いた煤を、両手を叩きながら落としていく。
「おともだち、おしょくじですの。リア、いそがしい、ですの。
だから、おいかけた、ですの。こっち、ディックとシェリー、いるから」
「俺も構ってられないんだけど」
そう言うディックに、ティナが尋ねてきた。
「あのまもの、ディック、どうしたの?」
「始末したけど」
「みんな?」
「皆」
ギルクォードを横切り、こちらに向かってくる怪人鳥の群れに、
先手を打ったのはシェリーだった。ディックでは、目で追うだけで精一杯だった彼女達を、
シェリーは青白い業火で、焼き尽くしたのだ。ディックがしたことといえば、比較的飛ぶのが遅く、
恐らく長距離を飛んでいたことで、疲弊していた子供の怪人鳥を、切り捨てただけだ。
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