02
スプーンを掴んで、ニルスとエリックがオートミールを、慌ただしく掻き込み始めた。
その様子を見ていたリアトリスに、ニルスが言う。
「早く食えよ。考え事は、その後でもいいだろ」
そう言われて、一掬い、口に含んでみる。どろりとした食感が、口の中に広がった。
想像していたよりも、味が薄い。そういえば、味付けが薄いと店主が言っていたことを思い出す。
何を食べているんだか、分からないまま口だけを動かす。味の薄い白い液体を、
ひたすら胃に収めていく作業を繰り返していると、全て食べ終えたニルスが、
「リア、この後はどうするつもりだ?」
そう尋ねてきた。エリックも口を開く。
「ライフルや防具は、結構使い込まれている感じだったし、魔物退治は続けてたんだろう?
上の人は、敢えて突っ込んでいないみたいだけど」
「……」
リアトリスはオートミールを飲み込んだ。
「今回で更に、人手が不足しているんだ。おまえが戻ってきてくれると、俺達としても助かる」
「……」
本音を言えば、ギルクォードに戻りたかった。戻って、もう一度ディックと、腹を割って話したいと思ったのだ。
数ヶ月……半年近く一緒にいながら、リアトリスはディックのことを何も知らない。そのことが、心に強く引っかかる。
リアトリスの隣で、同じようにオートミールを食べていたティナが、口を挟んだ。
「リア、ここ、いる、ですの?」
幼児のように、スプーンの柄そ握り締めながら、こちらの顔を覗き込むようにして、
「ギルクォード、いっしょに、かえらない、ですの?
ティナ、いっしょに、かえる、つもり、だった、ですの」
そう言ってくる。エリックとニルスは、それ以上は特に何も言ってこない。しかし、何らかの圧力を感じた。
それは、負い目を感じているリアトリスが、一人で勝手に感じているものかもしれない。
リアトリスは、スプーンを置いた。オートミールは、まだ半分残っている。
「おいらは……」
リアトリスは唇を舐めた。深く息を吸い込む。
「おいらは、まだ戻れねえ」
はっきりとそう言った。「おまえ、」とニルスが何か言いかけるのを、エリックが制す。
「理由を、聞いてもいいのか?」
「……話をしたい奴がいる」
「それは、組織に身を置いていては、出来ないことなのか?」
「組織に入れば、その指示に従わなきゃならねえし、自由に動けねえ。
それに、おいらが正式に身を置いてしまったら……」
「置いてしまったら?」
以前、アストワースを訪れた際。魔物ハンター達は、ディックに向かって一斉射撃をした。
それは、明らかな敵対行為だ。表面的な付き合いをしている今はともかく、正式に組織に身を置いてしまえば、
ディックから「敵」だと認識されてしまうと思った。シェリーにとっての、「邪魔者」だと認識されてしまえば、
話に応じてくれないかもしれない。そうした懸念がある。
「……」
エリックが、小さく息を吐いた。
「まだ戻れないと言ったな。いずれは、戻るつもりだと捉えていいのか?」
「……ああ」
リアトリスは、小さく頷いた。その「いずれ」が、いつの日になるかは分からないし、本当に戻るかどうかも分からない。
しかし、今はそう答えておくのが良いのだろう。頷いたリアトリスに、「そうか」と、エリックとニルスは肩の力を抜く。
「上を、どう納得させるんだ?」
エリックが尋ねてくる。リアトリスは思案した。今の説明では、ニルス達を黙らせることは出来ても、上層部は納得しない。
かといって、また逃亡するわけにもいかない。今、思いつく方法は一つだけだ。
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