01
【The juvenile crime―ある少年の罪状―】
He ran away. Run away from fear. Escaped from death. Ran away from the threat.
He turned his back. Friends turned their backs. Be prepared for the tall.
Turned her back into a nightmare. It's a crime that he committed. The industry must face.
It was a mistake to continue shouldering.
―――――――
水無月も近付いてきて、少しずつ蒸し暑くなってきた頃。
人々の纏う服も、袖が短く布も薄いものに変わり始めてきた。強い雨が降る日も多くなったが、
少しずつ夏へ変わっていくこの時期を、人々は楽しんでいる。
皐月の藤の日。
その日の朝食時。パンを焼いていたグラニットに、ディックは声を掛けられた。
「ねえ、ディック。リア坊が、ラントフトって村に出向いたのって、いつだったっけ」
そわそわと、落ち着きなく部屋の中を動いている。焼いていたパンから、焦げ臭い臭いがしたところで、
グラニットは思い出したように、天板を使ってパンを火から上げる。
「……二週間くらい、前じゃなかったですか」
思い出す為に、少し考えてからディックが答えた。
答えてから、そういえば戻りが遅いことに気付いた。ギルクォードからアストワースまで、順調に行けば二日で着く。
小さな森を挟んだラントフト村であっても、多少前後したとしても、一週間もあれば充分往復出来る距離だ。
「村の魔物を追い払う仕事だって、そう言ってたろ。強い魔物だったのかね」
グラニットは、非常に心配そうな顔をする。ディックはそんな彼女に対し、下手に励ますことも、
かといって悲観的なことも言わなかった。ただ、ほんの少し。イェーガー宅からいなくなった、
リアトリスのことが少しだけ、気になったのは事実だ。
立ち寄ったオボロの店で、
「ティナちゃんも、あれっきり戻ってこなくて」
オボロも沈んだ声で言う。
溜息を吐きながら、いつもティナが行っていたテーブルの拭き掃除を始めたオボロに、
ディックはふと言葉を投げかける。
「心配ですか」
「ん? そりゃあね。ずっと、一緒にいたんだから」
オボロは少し照れ臭そうな顔をした。口元の髭を撫でながら、思い出すように目を細める。
「去年の霜月の暮れだったかなあ。
リア坊もティナちゃんも、そのくらいの時期に、やってきたよね」
確かに、寒い時期だった記憶がある。けれども、ディックはあまり覚えていなかった。
然程、気にも止めていなかったのか。それとも、そんな瑣末なことも忘れてしまう程、
短期間で濃密な時間を過ごしていたからなのか。ディックには分からなかった。
「君は、心配じゃないのかい?」
そう問いかけてくるオボロの優しい目に、ディックは少し考える。
リアトリスとティナの顔を思い浮かべ、その声を思い出したところで口を開いた。
「気にはなります」
オボロはニコッと笑いかけてくる。
「それじゃあ、言っておいでよ。ラントフト村に」
その提案に、ディックは迷った。その迷いが顔に出ていたのか、オボロが尋ねてくる。
「リア坊が、心配……気になるんだろう。なら、あの子が向かった村に行けばいいじゃない。
何か迷うような、気がかりなことでもあるのかい?」
シェリーが。
そう言おうとした口を閉じる。彼女は、何も心配する必要が無いことを思い出した。
シェリーは強く、何者にも負けはしない。そして気付く。彼女が心配なのではない。
彼女が傍にいない、自分自身が怖いのだ。ディックは首を横に振った。
「いえ。なにも」
「じゃあ、行っておいで。ギルクォードの町なら、安心だよ。とてもお強い、守り神様がいらっしゃるからね」
ニコニコと笑うオボロに、ディックは「そうですね」と小さな笑みを返す。
実際、彼女は守り神だなんて偶像ではないけれど。
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