04


 リアトリスとティナは、ヴェルド森林へとやってきた。
 普段、人が入ることのない森の為、鬱蒼とした木々が覆い茂っている。
 日差しが差し込まず、少し湿った地面を踏みしめながら、リアトリスは暗い森の中を進む。
 いつ、魔物が現れるかも分からない雰囲気を感じて、辺りに注意を向けた。

「ねえ、ねえ、リア」

 と、服の裾を引っ張ってティナが大きな声で名前を呼んでくる。
 リアトリスは振り向いて、「しっ」と人差し指を立てた。それから、かなり小さな声で言う。

「喋るな」

 普段なら、少しの物音で掻き消されてしまう程の音量だ。けれども、これ程静寂な森の中では、
 その大きさであっても神経が張り詰める。実際、喋らなくても土を踏む僅かな音さえ、拾う魔物もいる。
 それでも、極力リスクは減らしたいのが、リアトリスの考えだった。例え襲ってくるのが二、三匹の魔物であっても、
 戦闘の音を聞き付けて、やってきた魔物に囲まれ、逃げ場を失うことも有りうることだからだ。

 しかし、そのことを理解していないティナはコトンと小首を傾げた。そして、徐々に悲しそうな顔をする。

「なぜ、ですの? リア、ティナのこと、おこってる、ですの?」
「違う。とにかく、静かに……」

 しろ、と続けようとしたリアトリスは、そこで言葉を詰まらせる。
 突然足を掴まれ、気付けば宙にぶら下がっていた。その勢いで、思わず舌を噛みそうになる。
 腹に力を入れて、上半身を持ち上げれば、足に太い蔦が絡みついていた。その先に視線を動かしていくと、
 巨木から伸びている蔦のようだ。じっとその幹を見ていると、少しずつ一箇所が膨らんでいるのに気付いた。
 やがて、乾いた板が割れるような音を立てながら、そこから人の顔をした瘤が膨らんでくる。

「……この木、食人木トレントだったのか!」

 高く持ち上げられながら、リアトリスは素早く青い目を走らせる。
 気付かなかったが、触手のような枝から何かがぶら下がっていた。蔦や葉でぐるぐる巻きにされていたが、
 人の形をしているように見える。よく見れば、この一帯の木々から、似たような物が幾つもぶら下がっている。
 中には、獣のような形の物もあった。



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