04


 ステンドグラスには、数人の天使が描かれている。その神聖で静寂な空気が漂う、ハンプール教会は、
 スタンフィールドで最も大きな教会であった。皐月メイ鈴蘭の日リリーヴァリー
 ハンプール教会には、多くの人々が集まっていた。アルストル領の領主やイーリッジの辺境伯といった著名人が参列しており、
 祭壇の前ではハンプール教会の聖職者が立っている。遠巻きにでも、幸福な二人を祝福しようと、
 その周辺でさえ祭りのように賑わっていた。

 白いドレスを纏ったクラウディア・レッドフォードが、父ウェンライト伯と共に、敷かれた白い布の上を歩いていた。
 白いドレスを纏い、赤茶色の巻き毛を華やかに結わえ、クラウディアはしずしずと、エドワードのもとへ向かっていく。
 エドワードはゆったりと、落ち着いた面持ちでこちらを見つめている。クラウディアは、
 唇に小さな笑みを浮かべて、彼の隣に立った。白い衣装は、エドワードの金糸のような髪や気品を、より際立たせている。

――ああ、いよいよこのお方の伴侶となれるのね。

 そう思うと、クラウディアは胸が一杯になった。参列者達の歌声が、何処か遠く聞こえる。
 眼前で聖職者が、簡略的な説教を口にしているのも、遠い声に思えた。

「皆様。本日はご多忙中にも関わらず、私達の結婚式にご列席頂きまして、誠にありがとうございます。……」

 エドワードが語る言葉を聞きながら、クラウディアも参列者の顔を見る。
 父親は嬉しそうに、しかし何処か寂しそうな顔でこちらを見ていた。母は目頭をハンカチで抑えている。
 多くの参列者が、自分達の婚姻を祝福していた。それだけで、クラウディアは胸に込み上げてくるものがあった。
 エドワードの語る抱負は、終わろうとしている。

「……多くを望むことはしません。私達はこれからも仲良く、いつまでも暖かな家庭を築くことを、皆様にお約束致します」

 参列者からの、多くの祝福の言葉が紡がれる。その後クラウディアは、エドワードと指輪の交換をした。
 銀色のシンプルなリングには、エドワードの目と、同じ色の宝石がついている。その指輪は、
 すんなりとクラウディアの細い指に嵌った。

「汝、エドワード・ホーストンは、この女、クラウディア・レッドフォーフドを妻とし、良き時も悪き時も、
病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、
妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」

 はっきりと、エドワードが大きな声で返事をする。聖職者は、今度はクラウディアを見た。

「汝、クラウディア・レッドフォードは、……」

 息を大きく吸い込んで、クラウディアは彼の「誓いますか?」という言葉に対して、はっきりと言った。

「誓います」
「それでは、誓いの印を、神の御前にて示しなさい」

 エドワードがそっと手を伸ばして、クラウディアのヴェールを上げる。

「愛しているよ、クラウディア」

 綺麗な微笑みだった。クラウディアは、そっと目を閉じる。頬に、エドワードの手が触れた。
 彼の顔が近付いてくるのが分かる。変な顔になってやしないかと、場違いな考えが、クラウディアの脳裏を掠める。
 そして、そんな彼女の緊張とは裏腹に、ごくあっさりと唇が触れた。その途端、軽く触れる程の口付けではあったが、
 それでも全身が火照るように熱を帯びた。急激な恥じらいが駆け巡る。目を開けると、
 エドワードがとても優しい眼差しで、こちらを見ていた。

 祝福の拍手が鳴っている。あとは、誓約書に名前を記すだけだ。
 この儀式が終われば、晴れて彼女はエドワード・ホーストンの妻となれる。

「エド様……私も、ずっと、お慕い申しておりますわ」


 鈴蘭の日のこの日。クラウディア・レッドフォードはエドワードの妻となった。しかし――

『二人で、末永く幸せに暮らそう』

 冬のある日。交わしたその言葉が打ち砕かれる日は、そう遠い先のことではなかった。



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