03
「血石の槍」
赤い魔剣を魔力が纏い、それらは無数の槍を象った光となり、空へ放たれる。
左目の視界に何かが映り、ディックは魔剣を振り上げた。襲い来る攻撃を防いだ。と思った次には、
魔剣を構える左腕に鋭い痛みが走る。その直後、今度は右肩からが血飛沫が上がった。
遅れて襲いかかる激痛に、ディックは歯を喰い縛った。続いて、上空から押し迫る強い魔力に気付き、魔剣を振り上げる。
直後、雷のような速さで、こちらに突っ込んできたヒースコートの、速さと重さを纏った強烈な蹴りが襲いかかる。
ヒースコートの左手は、猛禽類の足のような形状へと変化しており、赤黒い血液が付着している。
先程、ディックの左腕と右肩を切り裂いた時に、付いたものだ。
「残念だったわね、一つも当たらないわ」
ヒースコートが一旦、空高く上昇した。それからすぐに、雷のような速さで、こちらに突っ込んでくる。
ディックが魔剣を盾替わりに防ごうとするが、強烈な蹴りに対応出来ず、魔剣が掌から離れてしまった。
それに気を取られるよりも前に、ヒースコートの左腕が、ディックの首を切り裂いた。
「……っ!」
噴水のように、真っ赤な血が噴き出してくる。ディックは右手を首の右側に当てた。生暖かい血流が、
止めど無く溢れ出してくる。けれども、全身を流れる魔力が、その一瞬で全て首の回復に走ろうとしているのも分かった。
ゆっくりとだが、切り裂かれていた腕や肩の再生に回っていた魔力までも、全てが首に集結している。
そこだけ異様に熱い。意識せずとも、死を免れようとしているのだ。掌に伝わる、流血の感覚が無くなり、
ディックはそっと手を離した。もう血は流れていない。
ヒースコートが小さな微笑を浮かべている。
「混血にしちゃあ、大した再生力だこと」
けれども、血が止まり、首の傷が塞がるまで時間が掛かり過ぎた。こちらに向かってくる、
ヒースコートの攻撃を避ける為に走り出したが、急な立ち眩みを覚えて、ディックはよろけてしまう。
しかし、目の前が白くなり、遠のきそうなその意識を必死で掴んだ。踏み留まる。
此処で気を失ってはいけない。
両腕に力を込めて、ディックは迫り来るヒースコートの蹴りを受け止めた。
腕が嫌な音を立てて軋んだ。空へと舞い上がったヒースコートの笑い声が、落ちてくる。
見上げたディックに、彼は恐ろしいまでの歪んだ笑みを浮かべてみせた。
「じゃあ、次は本気で行ってあげましょうか」
次の瞬間。風を切る音と一緒に、ディックは殴り飛ばされた。何も見えなかった。
右頬が切り裂かれ、太い傷が走る。右目を覆っていた、血染めの包帯が細かく切れて、地面に落ちる。
強かに地面に体を打ち付け、呻いた所へ、風を切り裂く音と一緒に殺気の塊が近付いてくる。
ディックは腕を振り上げて、その爪撃を防いだ。
「くっ……!」
振り上げた左腕から、鮮血が迸る。深々と爪が腕を貫通していた。
腹に力を入れて、ディックが長い足を振り上げ、ヒースコートを蹴り飛ばした。その勢いで、
左腕を貫通していた爪が引き抜かれる。魔力が、今度はこの穴を塞ごうと全身を駆け巡っていた。
ヒースコートが再び、こちらに飛んでくる。そう思った時には、既に眼前にいた。彼の襲い来る左腕の攻撃を、
感覚だけでなんとか間一髪、避けることに成功する。もし避けるのが、一瞬でも遅ければ、
左目まで持って行かれていた。魔剣を掴もうと、ディックは手を伸ばす。
その間にも、ヒースコートは勢いを弱めることなく、こちらへ方向転換をして突っ込んでくるのが分かる。
ディックは地面に落ちていた魔剣を掴み上げて、振り返った。
「――っ!」
直後、眼前にはもうヒースコートが差し迫っていた。強烈な蹴りが襲いかかる。
骨が軋む嫌な音を聞いたディックは、そのまま後方へと吹き飛ばされた。
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