02
アストワースの中心に構える、灰色の大きな建物が、魔物ハンターが集うアストワース支部だった。
壁には丸い窓が幾つも並んでいる。所々には、塔が聳えていた。この塔は、支部に勤務するハンター達の宿舎であった。
ニルスが指定されていた部屋の中に入ると、もう殆ど集まっている。エリックなど、
見知った顔を見つけて、その隣に並んだ。よく見れば、現在任務に出ている部隊以外全員の顔ぶれだ。
十五分程待っていると、壮年の男が数人入ってきた。少将、大尉、少佐と階級が上の人間ばかりだった。
何度も繰り返されてきた、敬礼を一糸乱れぬ動きで、全員が彼らに向ける。足を開く音、
手を上げる音、足を閉じる音。それらが全て、綺麗に揃う。
「早速だが、此度諸君に集まってもらったのは……」
少将が口を開いた。
要約すれば、ずっと町を騒がしている、吸血鬼の拠点が分かったのだが、討伐隊が赴いた時には、
既にそこは荒らされており、夥しい血痕だけが残っていたという。そして、呼吸困難を引き起こす程の、
強い毒気に満ちており、建物内部には入れなかった。
「そこの調査は、また引き続き行っていく。しかし、先月、一般人の乱入で逃してしまった魔物然り、
近頃不穏な空気が流れている。各々、気を引き締めて、任務に掛かるように」
その後は、また新たな駆除依頼についての発表と、それに駆り出される部隊について、長々と説明が続いた。
◆
「魔物といえばさ」
会議が終わり、宿舎に戻る為、通路を歩いていたニルスの言葉に、エリックは彼を見る。
二人が暮らす宿舎は、勤務年数毎に階数を分けられており、まだ三年未満の二人は一番上の階だ。
この宿舎では、風呂やトイレは共同で使われている。殆どのハンターは、年齢層が比較的高いが、
ニルスとエリックは年齢が近いこと、同じ部隊にいることから、自然と行動を共にしていた。
「リアが庇った男なんだけど」
「リアっぽい人だろ」
即答で訂正してくるエリックに、ニルスは苛々した顔を隠さずに向ける。
「話の腰折るんじゃねえよ。そんで、その男なんだけどさ。見た目は全然人っぽいのな」
「ああ、皆そう言っていたな」
「俺は分かんなかったんだけど、スコット分隊長とかは、
魔物みたいな気配を感じたんだってさ。だから、攻撃の指示が出たんだけど」
話を続けながら、二人は長い階段に足を掛けた。
「隊長とかは、そいつが混血なんじゃないかとか、そういう仮説も立ててるっぽいんだよな」
「混血ねえ」
エリックが不信な顔をした。
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