03
「あなた様の力添えとなれるのでしたら、喜んで命も魔力結晶も、差し出します。
私を下僕にするおつもりが無いのでしたら、すぐお取り下さいませ。私の魔力結晶は、こちらにございます」
そう言いながら、私は自分の胸に手を当てました。
掌に心臓の脈打つ鼓動が、伝わっております。私の魔力結晶は、この心臓にあるのです。
そのお方は柳眉を顰めたかと思うと、大きな声を上げて、たいそう可笑しそうに笑われました。
凛々しいご尊顔が一転し、まるで童子のように、無邪気に笑っておられました。
ひとしきり笑い終えたそのお方は、ゆっくりと立ち上がり、私を見下ろしました。
「いいだろう。おまえは今から、俺の駒だ」
待ち侘びたその言葉を聞いて、私は心から感謝致しました。
「だが、俺が使えないと思ったら、その時はすぐに魔力結晶をもらうぞ」
「どうぞ、飽いたならすぐに私の魔力結晶を、お取り下さいませ。今、この時より、
私のものは何一つございません。手足も、魔力結晶も、毛髪一本に至るまで、全てがあなた様のものでございます」
そう。この時から私は、生も死も、もはや私のものではないのです。
このお方が飽きるまでは、私はこのお方の道具なのでございます。
それは、丸い月が美しく輝く、静かな夜でございました。
早いもので、あれから数百年の月日が流れました。
私が敬愛するそのお方は、今は水底で眠っておられます。そうなってしまった時、
私は深い悲しみを覚えました。ですが、すぐにそのお方をお救いする手立てを、講じました。
長い月日が掛かりましたが、もうすぐ目を覚まされるでしょう。
私が敬愛し、忠誠を誓う、たった一人の御主人様。
再び目を覚まされる時まで、私はこの茶番を遂行してみせましょう。
嗚呼、愛しのご主人様。早く、私の名前をお呼び下さい。
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