02
そのお方の銀色のお髪が赤く染まり、魔力結晶を奪い続ける、傍若無人な行動が、
満ち足り過ぎていた私には、何よりも心躍る光景でございました。
もっとお側に寄り、そのご尊顔を拝見したいと思いましたが、恐れ多く、近付くことさえ憚られました。
狭い世界に囚われ、王として崇められた生き方が、そのお方の前ではなんとも小さく、
恥ずかしい心持ちでございました。
けれども、恥じらう私の思いとは裏腹に、そのお方は私の方へと近付いて来られました。
あまりにも神々しく、私は自然とその場に膝を付き、深く深く、頭を垂れました。
長い時間、そのようにしていた気がしていましたが、実際は、そう長くはなかったでしょう。
「私を、あなた様の下僕にして頂けませんか」
私は失礼を承知で、思わず口に出してしまいました。私は勇気を振り絞り、
そのお方のご尊顔を見上げました。ああ! なんと凛々しく、美しいのでしょう。
その時のあの胸の高鳴りや、頬の熱なども、私は今でも覚えております。
そのお方は、跪く私の目を見る為に、わざわざ腰を落とされ、こちらを凝視しておりました。
間近にあるそのお顔立ちが、とても気品に溢れていて、私は心臓を強く握られたような、
そんな息苦しさを覚えました。
「奇妙な奴だ」
と、そのお方が笑われました。艶のある低いお声は、色香を纏っておられました。
そのお声が妙にこそばゆく、背筋が震える程でした。ですがその宝石のような青い目は鋭く、
まるで蛇のように、私を捉えておられるのです。
「俺はおまえの仲間を殺した。そんな奴に、何故そんなことを頼む。
命乞いでも、するつもりなのか?」
それは、ごもっともなお言葉でございます。
ですが、流石にこの一瞬で抱いた想いを、そのまま吐露するわけにはいきませんでした。
その分別が付くくらいには、私は冷静さを取り戻していたのです。
私は、そのお方に向けて微笑むことにしました。私が抱く感情や思考など、このお方の前では、
瑣末なものでございます。そのようなくだらないものを、お見せするわけには参りません。
ですから、私は微笑み、その微笑みの仮面の下に、私の感情を隠すことに致しました。
「命乞いなど、醜い真似は致しません。只、私はあなた様のその力強いお姿に、惹かれたのでございます。
私が手に入れた力は、私の世界を守る為ではありません。あなた様の為に、使うべきなのだと、判断致しました」
「おまえがそう思っていても、俺は話を聞くだけ聞いて、その魔力結晶を奪うかもしれない」
私はその言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろしました。そのまま、このお方が去られてしまったらと、
不安でございました。少なくとも、私の持つ魔力結晶は欲していらっしゃるのだと分かり、
私は酷く安心したのでございます。
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