01
激しい雷雨の中。その男達は神妙な面持ちで固く口を噤み、一人の若者を見下ろしている。
彼らは皆、厳しく冷たい鎧に身を包み、雨を凌ぐ為に纏ったフード付きのローブを纏っていた。
雨水を吸ったフードから、冷たい雫が絶え間なく落ちていく。血に塗れた腕を抑えながら、その若者は怯えた目で、
周りの男達を見上げていた。彼の腕からは腐臭が漂い、少しずつ変色した肌が剥がれている。
「おまえのお陰で、奴に手傷を負わすことが出来た」
「次で終わりにしよう」
「奴を確実に仕留める為には、特攻隊員が必要だ」
「そこで、生贄の山羊は、ケビン・メイシー、おまえになった」
その言葉に、座り込んでいたケビン・メイシーは顔を引き攣らせる。雨の音でさえ、掻き消せない魔物の唸り声が聞こえてきた。
大木をもへし折る、あの爪撃の威力を、ケビンは思い出す。
「ケビン・メイシー、最後の仕事だ」
「おまえが切り開く活路を、我々は決して無駄にはしない」
「約束しよう、メイシー。我々は必ず、奴を葬ると」
「さあ、立ち上がれメイシー。奴はもう、すぐそこだ」
ケビンの耳に、幾度もこだまして響いてくるのは、自分の死を望む言葉だ。
先程まで、一緒に闘っていた仲間達は、今は自分の死を望んでいる。見事、魔物へ特攻することを望んでいる。
ケビンの目に涙が溢れてきた。けれども、絶え間なく振り続ける雨のせいで、それが涙ということを、
仲間達に知らせることは出来なかった。
故郷に残してきた父と、幼い妹を思い出す。いつ死ぬか分からないのに、それでも送り出してくれた二人だった。
声を荒げることが少なく、どちらかというと頼りない父だったが、それでも一人で、自分と妹を育ててくれた、
誇りに思える父だった。妹とは、忙しさのせいもあって、なかなか構ってやれなかった。
なのに、もう可愛がってやることが出来ない。家族に、会うことすら許されない。
仲間達は、自分の死を望んでいる。
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