01
その昔。優しく、素直で慕われていた娘は、悪い大臣の嘘により、王様から王国を追放されてしまいました。
王国を追放されたお姫様は、盗賊に襲われたり、野生の狼に追いかけられたり、身も心も傷だらけになりながら、
とある森に逃げ込みました。足が痛み、喉も乾いて、お腹も空いて、とうとうお姫様は動けなくなってしまいます。
ひもじくて、悲しくて、寒くて辛くて泣いていると、目の前に大きな銀色の蛇が現れました。
「こんばんは、娘さん。こんな所で、どうしたのですか」
お姫様は涙ながらに、これまでの経緯を大蛇に伝えました。静かに聞いていた大蛇は、
話を聞き終えると、するすると近くの木に登りました。高い、高い所に生っていた赤い果実を幾つか落とし、
お姫様に伝えます。
「とても美味しい果実です。まずは、それをお食べなさい」
地面に落ちたものを食べるなんて。と、お姫様は渋りましたが、空腹に耐えることは出来ず、
仕方なく口にしました。大蛇が落とした幾つもの果実を食べると、不思議なことに少しずつ元気が出てきます。
「娘さん。私について来なさい」
そう言って、するすると木から降りた大蛇は森の奥へ進んでいきます。
お姫様は、少し不安になりながらも、大蛇の後を追いかけました。しばらく進むと、
水の音が聞こえてきます。森の奥には、済んだ小さな川が流れていました。近くには、大きな木が聳えており、
そこにはウロもあります。ウロは、小柄なお姫様であれば、すっぽりと収まるくらいの大きさでした。
そして、さっきの果実と似た木々が生えていました。
大蛇が口を開きました。
「この川は、乾いた喉を潤すには充分でしょう。
雨や雪が降ったなら、あのウロの中へお入りなさい」
お姫様は他に頼れる人もいないので、大蛇の言葉に従うことにしました。
「ところで、もう冬になるのに、あなたは冬眠しなくても大丈夫なの?」
そう尋ねると、大蛇は小さな声で笑いました。
「私は冬眠しなくても、大丈夫な蛇なのです」
お姫様は、そんな蛇もいるのね。と、深く考えずに納得しました。
大蛇はふと鎌首をもたげて、周囲を見渡しました。
「さあ、陽が暮れてきました。早くウロにお入りなさい。獰猛な狼が現れますからね」
「狼? 怖いわ、ウロに入っても襲われちゃうじゃない」
蛇の言葉に、お姫様は震えました。すると、大蛇はまた笑います。
「大丈夫です。狼があなたを襲う前に、狼を退治してくれる人がいますよ」
「他にも、此処に誰か住んでいるの?」
お姫様が尋ねると、大蛇は頷きました。
「彼はきっと、あなたを守ってくれるでしょう。さあ、早くお入りなさい」
お姫様は、大蛇に言われた通りウロに入りました。
ウロの入口から、動こうとしない大蛇に、お姫様は尋ねました。
「あなたは今夜、何処で寝るの?」
「私は、木の上で休みます。何かあれば、すぐに動けるように見張りますよ。
ですから、娘さんはどうか、安心してお休みなさい」
「ありがとう」
素直にお礼を言って、お姫様はウロの中で横になりました。
とても居心地が良いとは言えませんが、それでもどっとした疲れから、お姫様は程なくして、眠りに落ちました。
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