05


 お姫様は、騎士が盲目になってしまったことを、酷く悲しみます。
 そして、呪いを解く最後の手段として、魔法使いに嫁入りすることを言いました。
 すると、騎士はとても悲しそうな顔をしました。

「私の為に、あなたが最も大切にしなければならないものまで、手放す必要はありません」
「けれど、そうすればあなたの呪いを解いてくれるの。私は、魔法使いと約束したわ」
「あなたはもう、私の為に充分してくれました。もう大丈夫です。私の呪いは、私自身で片付けます。
だから、あなたはもうお休みなさい」

 その日、騎士に見守られながら眠っていたお姫様は、凄まじい叫び声で目を覚ましました。
 傍にいた筈の騎士の姿は、部屋の何処にも見当たりません。まだ暗い中、慌てたように、
 お姫様は声のした部屋で向かいます。部屋の扉を開けると、魔法使いが倒れていました。
 その胸には、立派な剣が突き刺さっています。そして、その傍らには騎士が倒れていました。
 朝日が差込み始め、お姫様が見ている前で、騎士は再び大蛇へと姿を変えていきます。
 銀色の鱗が、痛々しく剥がれていました。その鱗の輝きが、銀の髪飾りと似ていることに、お姫様は気付きます。

 騎士は自分の呪いよりも、お姫様を守ろうと、命を懸けて魔法使いを打ち倒したのでした。
 傷を負って、動くことの出来ない銀の大蛇を抱きしめると、最後まで、自分を守り、
 助けてくれた大蛇に感謝の意として、その口にそっとキスをしました。

 すると、大蛇の身体が眩い光に包まれていきます。驚くお姫様が見守っていると、
 大蛇は次第に騎士の姿へと戻っていきました。騎士が呻く声を聞いて、お姫様は目を丸くしました。
 騎士は一命を取り留めたのです。嬉しくて、思わずお姫様の目に涙が溢れました。

 一筋零れ落ちた、お姫様の涙が騎士の目に落ちました。騎士が目を開けます。
 碧い瞳は視力を取り戻していました。魔法使いが死んだことで、騎士の呪いは解けていました。
 そして、消えそうな騎士の灯火に、お姫様の心から願う騎士への想いにより、奇跡が舞い降りたのです。

 その後、騎士はお姫様にプロポーズをしました。お姫様は勿論、すぐに承諾しました。
 二人はその後、騎士の生まれ故郷へと戻り、末永く幸せに暮らしました……』


 最後のページは、幸せそうな姫と騎士。そして、数人の子供の絵で締め括られている。

「……ふん」

 婚約者の女から聞いた話を読んだその男は、小さく鼻を鳴らす。騎士は呪いを解いて、姫と幸せに暮らした。
 全てが物語のように、綺麗に幸福な終りを迎えるわけではない。しかし、彼も人ならざる者とはいえ、
 願わずにはいられない。

 誰にも邪魔されず、何者にも奪われず、己が愛する者の傍にいたいと。



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