04


『 その日。お姫様が髪に付けていた銀の髪飾りを、魔法使いはたいそう欲しがりました。
 お姫様は髪飾りを外すと、魔法使いに渡します。魔法使いは大喜びしていましたが、
 呪いを解いてはくれません。

「いつ、呪いを解いてくれるの?」

 お姫様が尋ねると、魔法使いは答えました。

「碧い宝石が手に入ったらね」

 次の日。魔法使いは、銀の髪飾りを売りに家を出ました。
 魔法使いから命じられた仕事を大急ぎで終わらせて、お姫様は町中を走ります。しかし、
 何処を探しても碧い宝石は見つかりませんでした。この小さな町では、宝石なんて高価なものは、
 市場に出ないのです。大蛇も手伝ってくれましたが、結局一つも見つかりません。

 翌朝、魔法使いが意地悪な顔で言いました。

「宝石は、見つからないみたいだね」

 お姫様は悔しくなりました。魔法使いは、この町では碧い宝石が手に入らないことを、
 知っていたのです。そして、お姫様が外出していることも知っていたのです。魔法使いは、
 最初から呪いを解くつもりなんて無かったのです。

 その夜、悲しくてしくしく泣いているお姫様のもとへ、騎士が現れました。

「娘さん、どうか泣かないでください」

 緑の目を濡らすお姫様に、騎士はゆっくりと微笑みました。

「あとは私に任せて、今日はもうお休みなさい」

 翌朝。お姫様が身を起こすと、枕元に綺麗な碧い宝石が置いてありました。
 お姫様は、それを持って魔法使いのもとへ向かいます。そして、魔法使いに宝石を手渡しました。

「これを、何処で手に入れた!」

 怒ったように、大声を出す魔法使いに、お姫様は少し怖くなりました。
 けれども、魔法使いに負けないように、大きな声で言い返します。

「それよりも、呪いを早く解いて頂戴!」

 そう言うお姫様を見て、魔法使いは悔しそうな顔のまま、言いました。

「おまえがワシのお嫁さんになってくれたらね!」

 意地悪で醜悪な魔法使いとお嫁さんになるなんて! と、お姫様は戸惑いました。
 けれども、すぐに魔法使いに詰め寄りました。

「それで、本当に呪いを解いてくれるのね?」
「ああ、約束しよう」

 それを聞いて、お姫様は決心しました。

「それなら、私はあなたのお嫁さんになるわ!」

 これで騎士の呪いが解けるならと、お姫様は覚悟します。しかし、本当はとても嫌でした。
 その夜、お姫様は騎士にお別れを言おうとしていました。けれども、騎士は一向に現れません。
 待ち疲れて眠ってしまったお姫様は、扉が開く音を聞いて飛び起きました。扉を見れば、
 廊下から傷だらけの騎士が入ってきます。

「ああ! 何処に行っていたの?」

 駆け寄ったお姫様は、騎士が両目を失っていることに気付きました。騎士は言いました。
 昨晩、お姫様が眠った後で、こっそりと魔法使いの森に足を踏み入れたこと。
 森には、碧い宝石を実らす木があるので、そこから一つ取ったこと。しかし、お姫様を手助けしていたことや、
 森に足を踏み入れたことを魔法使いに知られたこと。森に足を踏み入れた罰として、両目を奪われたことを言いました。



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