Story11
ある男の慕情より
静かだった。聞こえるのは、泡が立ち上る音。見えるものは、水ばかり。
彼がそこに沈んでから、幾年の歳月が流れただろう。
深い、深い水底で、彼はただ蘇る日を待ち続けていた。
沈んでからも、彼がずっと考えていたのは、一人の女のことだ。
愛していた。何よりも、誰よりも。愛していた。愛していた。愛していた。
彼はただ、こちらを見て欲しかったのだ。自分だけを愛して欲しかったのだ。
ただ、彼は愛していたのだ。
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