02


 そうして鉄製の胸当てや青銅製のアームカバー、首の防具、レッグカバーなどで武装したリアトリスは、
 半刻程掛けて、一人ルクレール鉱山へとやってきた。ルクレール鉱山への入口には、
 木で出来た階段が作られている。その階段を登っていけば、トロッコのレールが敷かれていた。
 トロッコは引っ繰り返り、中の鉱石が散らばっている他、ツルハシなどの道具も投げ出したように転がっていた。
 それを見て、炭鉱夫達がこぞって、慌てて逃げ出したのが、手に取るように分かる。
 魔物の出現に驚いた炭鉱夫達は、その恐怖から、全てを置き去りにして町まで戻ったのだろう。

 レールに沿って進んでいくと、洞窟を見つけた。レールはその中に続いていることから、
 この先は坑道であると判断出来た。言われた通り、今はもう使っていないという、
その坑道のある洞窟へと向かえば、確かにおどろおどろしい雰囲気が、奥から立ち込めてくる。

「魔力が漂ってきてんな……」

 シェリーと対峙した時のような息苦しさはないが、それでも肌を突き刺すような痛みが襲う。
 少量とはいえ、毒気を感じたリアトリスは、腰のベルトにぶら下げた半面防毒面マスクを、顔に装着する。
 それは、強烈な臭気や毒素から体を守る為のものだ。特性のフィルターが付いており、
 毒素を排除して、綺麗な空気だけを通す。慣れた手つきで半面防毒面マスクを装着し、ベルトを全て締める。

 坑道の中へと足を踏み入れた。岩が剥き出しの天井からは、黒い紐に吊るされた裸電球が、ゆらゆらと揺れている。
 リアトリスはライフルを背中から外し、慎重に足を進めていく。裸電球の頼りない明かりだけが、暗い坑道を照らしている。
 突然地面が揺れ始め、リアトリスは慌てて壁に手を付いた。電球が、激しく揺れる。
 接触不良を起こしたのか、何度か点滅を繰り返した。急激に魔力を強く感じて、リアトリスはライフルを構えたまま、
 その方向へ走り出す。迷路のような坑道の中を、レールに沿って進んだリアトリスは、
 ある曲がり角で足を止めた。壁に背を貼り付けて、そっと向こうの様子を伺う。

 四メートル近い大柄な体躯の男が、立っていた。突き出した下唇から、上に向かって、
 太い牙が二本突き出しており、太く捻れた角が頭部から生えている。筋骨隆々の身体には、簡単な鎧だけを纏っていた。
 彼がそわそわと歩くたびに、地響きがした。その盛り上がった肩に掛けているのは、
 大きな斧だ。その巨体と赤みの強い肌から、リアトリスはその魔物が、

――大鬼オグルだ。

 そう気付いた。大鬼オグルは総じて知能は低い。しっかりと計画を立てれば、
 勝つことも出来る魔物だった。しかし、何よりも注意しなければいけないのは、彼らのその腕力だ。
 その豪腕から振り下ろされる拳や、武器での打撃は、一度でも受ければ体中の骨が砕けてしまう程の威力を持つ。
 とはいえ、その動き自体は非常に鈍いので、慌てずにきちんと見切れば、直撃することはない。

 リアトリスは、腰に提げた鞄を開いて、中身を確認する。即席の爆弾は作れそうだ。

――後は……どうやってこいつを引き摺りだすか、だな。

 こんな狭い所で爆発を起こせば、自分も危ない。リアトリスは、大鬼オグルの特徴を思い出す。
 普段の少年らしい幼い顔は消え失せ、そこには魔物ハンターとして、鋭く真率な表情だけを浮かべていた。



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