05
「儂は、百年程前。ようやくシェリー殿を見つけることが出来ました。しかし、その時。
既に、混血は、シェリー殿の側におりました。
それ故に、何故、お二人が行動を共にするようになったのか。何故、そこまで彼に注意を向けているのかは、
分かり兼ねます。そこは、アベリー殿の力を以てしても、詳細は不明でした」
「というよりも、シェリーの邪魔が入っちゃったから。ちゃんと見れなかったのよね」
行儀悪く、手にしたフォークを振りながら、言い訳するようにアベリーが口を挟む。
セオドアが口を開いた。
「……シェリー殿と混血が、ギルクォードに居座るようになり、
早くも六年程経ちました。シェリー殿は、儂の存在にも気付かぬ程に、力が衰えているようでいらっしゃいます。
彼女がそのように、落ちてしまったのは、恐らく混血の所為でありましょう。
公爵は彼のことを、どうなさるおつもりですかな」
その問いかけに、アベリーがまた口を挟む。
「ラスト様にとっては、シェリーの傍にいる奴は、みーんなお邪魔虫なんでしょ?」
アベリーが切り分けた羊肉を口に運びながら、口を挟んでくる。
ひたりと視線を向けてくるエドワードの前で、アベリーはクスクスと笑った。
そして、頬に手を当てて、その柔らかさと美味しさに、舌鼓を打つ。
「……わざわざ、あのシェリーが気にかける位だ。
そいつは、どれくらいの力量を持っているんだ、セオドア」
「どれ程……そうですな。三下止まりの魔物相手には、対して苦戦を強いられることもありません。
しかし、もとが混血ですから、魔力のムラによるものもあり、
日々その力量は変動しております。しかし、全体的に見ても、ラスト様には遠く及ばないものかと」
「……アドルファス」
エドワードは、憮然とした顔のアドルファスの名前を呼ぶ。
「ギルクォードへ向かえ。その混血が、
どれ位の強さか見てこい。手加減する必要もない」
「はいよ、公爵様」
アドルファスは立ち上がり、拳と掌を合わせて、その指の関節を鳴らした。
「腕が鳴るぜぇ。オレは今、無性に苛々しているからな!」
シルヴェーヌの方を見ながら、吠えるように言うアドルファスに、シルヴェーヌは静かな微笑だけを返す。
舌打ちをして、そのままのっしのっしと食堂を出て行くアドルファスに、
ドルチェットが、フォークを咥えながら尋ねた。
「あれぇ? アドルファスゥ、デザートいらないのぉ?」
「食いたきゃあ勝手に食いな!」
手をひらひらと振る少女達に見送られ、アドルファスは出て行った。
乱暴に扉が閉まる。ひそひそと、少女が口元に手を当てて、忍ぶような声で尋ねる。
「ねえ、シルヴィお姉様。アドルファス、ちゃんとギルクォードに辿り着けるかなぁ?」
「さあ、どうかしら」
クロードがそっとエドワードの耳に唇を近付ける。
「アドルファス様が、その混血を倒してしまわれたら、どうなさいますか」
倒すというのは、殺すということだ。エドワードは鼻を鳴らして笑う。
「どうもしない。アドルファス程度に破れるなら、元々シェリーには釣り合わない、
魔物もどきだったというだけだ」
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