04
「はい。シルヴェーヌ様からの報告によりますと、ノーフォーク湖の封印は、
徐々に解けております」
クロードの朗読するような、滑らかな声が室内に響く。
「ラスト様のお身体も、もう間もなく解き放たれるでしょう。近頃では、ラスト様のお力を感じ取った、
有象無象の者達が、皆一様に南へと逃げており、その影響で町村が、多数被害を受けているとのことで御座います」
でもでもぉ。と、シルヴェーヌの隣の少女が続けた。
「魔将が一人、嗅ぎ回っているっぽいんですぅ」
「この魔将、どうなさいますか?」
シルヴェーヌの問いに、エドワードが眉を潜める。やがて、ふっと力を抜いた。
「しばらく泳がせていろ」
「分かりましたわ」
肉を食べ終えたノースが、皿に残ったソースを意地汚く舐めている。
ピチャピチャという音が、静かな部屋の中で、やけに大きく聞こえていた。
「続いて、セオドア様からの中間報告になりますが、」
「僭越ながら、儂が自ら報告致しましょう」
鷲鼻の男が、好々爺のような笑みを浮かべたまま、クロードの言葉を遮った。一度目を合わせると、
クロードは口を閉じた。貼り付けたような笑みを湛え、一歩後退する。
「見ている限り、混血は、変わらず魔物を退治する日々を送っており、
シェリー殿もまた、変わらぬ御様子」
「そうか……」
「そして、もう一つご報告が御座います」
セオドアは場違いな程に、柔和な笑顔を浮かべたまま続けた。
「……以前、公爵にもご相談した通り。オレアンに向かうように、魔物を追い立てて、
結果奴らは期待通りに、オレアンを滅ぼしました。そして邪魔者のいないその町に、混血が向かうよう、
仕向けることに成功しました」
セオドアはそこで一旦区切ると、グラスに入ったワインに口を付けた。乾いた唇を湿らせる。
ノースが舌舐めずりをしながら、セオドアを見た。部屋にいる魔物達は、続く言葉を待っている。
「混血だけを呼び出したと思ったら、彼の影の中から姿を現したのです。
儂もその様を、別の目を通して見ていました。どうやら、シェリー殿は彼を監視している御様子でした」
その報告を聞きながら、クロードはそっとエドワードを盗み見た。
エドワードは氷のように冷えた表情で、静かに語られる言葉に、耳を傾けている。
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