03


「今日はよく集まってくれた。おまえ達に感謝する」

 エドワードが杯を上げれば、魔物達はそれに倣う。ノースは隣にいるアベリーの動きを見て、
 不思議そうに瞬きをする。アベリーが両手を組み、そこに顎を乗せながら尋ねてきた。

「途中で、いなくならないわよね?」
「案ずるな、アベリー」

 小さく微笑んで、エドワードがそう返す。
 ワインレッドのドレスの女性や、白いスーツに身を包んだ男が、静かにワインを嗜んでいると、
 食堂から出て行ったアリスが、ワゴンを押して戻ってくる。

「海亀のスープで御座います」

 静かにそう告げて、アリスはアベリーから順にスープ皿を置いていく。ふんわりとした、
 独特の香りがアベリーやノースの鼻を突いた。ノースの隣に腰掛けていた、筋骨隆々の男は、
 そのスープ皿を右手で掴むと、風味も何も関係なく、まるで水を飲むように口の中に流し込んでいく。
 そして、口を開けながら音を立てて咀嚼する。それを見て、ワインレッドのドレスに身を包んだ女性が、
 卑しいものを見るような、厳しい眼差しを男へ向けた。口元には、蔑むような笑みを浮かべている。

「嫌ですわ。此処は、いつから動物園になったのかしら」
「ああ? シルヴェーヌ、てめぇオレ様に嫌味でも言ってんのか!」
「あら。そんな反応をするということは、ご自身でもマナーがなっていないことを、
自覚していらっしゃるのね。自覚している割に、直そうとしないその神経が信じられないのですが」
「うっせえな!」

 鳶色の瞳で睨み付ける男は、その大兵肥満な身体の所為か。手に持つスープ皿が、
 まるで、ままごとの玩具のように小さく見える。野獣のように、ばさばさの髪が総毛立った。
 吠えかかる男とは打って変わり、シルヴェーヌと呼ばれた女性は、涼しい顔で続けた。

「大きな声を、上げないで下さいまし。公爵の眼前ですわよ」
「テメェが、先に喧嘩を売ってきたんだろうが!」

 尚も吠える男を窘めたのは、エドワードだ。

「アドルファス、シルヴェーヌ。そこまでだ」

 静かながらもその声音には、これ以上の騒ぎは許さない。そういう雰囲気が含まれていた。
 エドワードを見れば、彼は澄んだエメラルドグリーンの瞳で、じっとこちらを見据えている。
 その底の見えない冷たい視線に射抜かれ、アドルファスは罰が悪そうに居住まいを正した。
 その後、何度かアリスが新たな食事を運んできては、客人達の前に並べていた。

「子羊の腰肉、ポルトソースとランドソース添えで御座います」

 アリスがテーブルに置くや否や、立ち上がったノースはそのまま、皿に顔を近付けて、
 貪るように噛み千切っていく。口の周りやテーブルをソースで汚しながら、一心不乱に音を立てて、
 食べる様を見たアドルファスが、「ふん」と鼻を鳴らした。

「こいつの食い方だって、汚らしいじゃねえかよ」
「あら、アドルファス。アナタ、狼と食べ方比べてるの?」

 アベリーが小さく笑えば、シルヴェーヌとその隣に座っていた、ピンク色のパーティードレスの少女が、
 揃ってクスクスと笑う。アドルファスは顔をしかめると、また鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「マナーなんて小賢しいもん、俺ぁ嫌いなんだよ」

 そこで、それまでずっと黙っていた鷲鼻の老人が口を開く。

「して、此度はどのような案件ですかな? 唯の食事会では、ないでしょう」
「ああ。経過の報告についてだ。情報は共有しておいた方がいいだろう。クロード」

 名前を呼ばれて、クロードは一歩前に出る。両手を後ろに回した状態で、静かに口を開いた。



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