11


「お兄さん、すごい!」

 リタは興奮していた。

「あんな大きな魔物、倒しちゃうんだもん! あたし、びっくりしちゃった!」
「そうか」

 頷きながら、ディックは手を伸ばした。
 そして、弱い力で彼女の額を指で弾く。「痛っ」と悲鳴を上げて、額を抑えながら、
 恨めしそうな目で見てくるリタに、ディックは嗜めるように言った。

「親父さんが、すごく心配していたんだ」
「……」
「なんで、一人で入ったのかは知らないけど。二度とするな」
「……分かってる。ごめんなさい」

 反省している顔をするリタを見て、ディックは諭すように言う。

「謝るなら、親父さんに謝りな」
「うん。分かってる」

 リタはまた、素直に頷いた。それを見て、ディックは少し迷いながら、もう一つ言った。

「それから、俺がどう倒したのか。誰にも言わないでくれないか」

 するとリタは、今度は大きく頷いた。

「うん! あたしだけの秘密にする!」

 そして、にっこりと笑うのだった。


 そうして、無事に戻ってきたリタを、彼女の父親は強く抱き締めた。
 そして、ディックを見て親子共々、深々と何度も腰を折る。ディックの前で、
 父親は一度もリタを叱らなかった。立ち去った後で、恐らく叱りつけるのだろう。

「本当に、ありがとう御座いました。本当、なんとお礼を申し上げれば良いのか」

 少し考えて、男が提示した、お礼の申し出を有り難く受け入れて、
 ディックはそろそろベルボーンを発つことにした。大きく予定が狂ってしまったが、それもよくあることだ。

「また来てね! おにいさん! あと、魔物退治、頑張ってね!」

 父親の手を強く握り、大きく手を振るリタ親子に見送られ、ディックは町の出口へと向かう。
 細い枝に止まって、その様子を見ていた小鳥がいた。

《ギャギャッ》

 耳障りな囀りを上げて、小鳥は静かに羽撃たいた。

 やがて、ディックはベルボーンから出た。そこには、石畳が広がっていた町から、
 一気に人の手が加えられていない、自然がそのまま残っている風景が広がっている。

                  ◆

 その男は、閉じていた目を開いた。そして、唇に小さな微笑を浮かべて微笑んだ。
 店内には誰もいない。今日は定休日なのだ。その為、今日はあの子も外に出掛けている。

――なかなか、お強い様ですな。しかし……

 あの小鳥が見ている景色は、男にも見えている。
 あの赤い髪の混血ハーフブラッドが、どのように鳥の骸を倒したのか。それを一緒に見ていた。

――あれでは只の喧嘩殺法。いずれ、壁にぶつかりますぞ。
そのままでは、ラスト様に、一方的に殺されるだけ。

 そこまで考えて、

――いえいえ。ラスト様のお手を煩わせるまでもありませんな。

 男はゆっくりとかぶりを振った。



[ 75/115 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -