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「お兄さん、すごい!」
リタは興奮していた。
「あんな大きな魔物、倒しちゃうんだもん! あたし、びっくりしちゃった!」
「そうか」
頷きながら、ディックは手を伸ばした。
そして、弱い力で彼女の額を指で弾く。「痛っ」と悲鳴を上げて、額を抑えながら、
恨めしそうな目で見てくるリタに、ディックは嗜めるように言った。
「親父さんが、すごく心配していたんだ」
「……」
「なんで、一人で入ったのかは知らないけど。二度とするな」
「……分かってる。ごめんなさい」
反省している顔をするリタを見て、ディックは諭すように言う。
「謝るなら、親父さんに謝りな」
「うん。分かってる」
リタはまた、素直に頷いた。それを見て、ディックは少し迷いながら、もう一つ言った。
「それから、俺がどう倒したのか。誰にも言わないでくれないか」
するとリタは、今度は大きく頷いた。
「うん! あたしだけの秘密にする!」
そして、にっこりと笑うのだった。
そうして、無事に戻ってきたリタを、彼女の父親は強く抱き締めた。
そして、ディックを見て親子共々、深々と何度も腰を折る。ディックの前で、
父親は一度もリタを叱らなかった。立ち去った後で、恐らく叱りつけるのだろう。
「本当に、ありがとう御座いました。本当、なんとお礼を申し上げれば良いのか」
少し考えて、男が提示した、お礼の申し出を有り難く受け入れて、
ディックはそろそろベルボーンを発つことにした。大きく予定が狂ってしまったが、それもよくあることだ。
「また来てね! おにいさん! あと、魔物退治、頑張ってね!」
父親の手を強く握り、大きく手を振るリタ親子に見送られ、ディックは町の出口へと向かう。
細い枝に止まって、その様子を見ていた小鳥がいた。
《ギャギャッ》
耳障りな囀りを上げて、小鳥は静かに羽撃たいた。
やがて、ディックはベルボーンから出た。そこには、石畳が広がっていた町から、
一気に人の手が加えられていない、自然がそのまま残っている風景が広がっている。
◆
その男は、閉じていた目を開いた。そして、唇に小さな微笑を浮かべて微笑んだ。
店内には誰もいない。今日は定休日なのだ。その為、今日はあの子も外に出掛けている。
――なかなか、お強い様ですな。しかし……
あの小鳥が見ている景色は、男にも見えている。
あの赤い髪の混血が、どのように鳥の骸を倒したのか。それを一緒に見ていた。
――あれでは只の喧嘩殺法。いずれ、壁にぶつかりますぞ。
そのままでは、ラスト様に、一方的に殺されるだけ。
そこまで考えて、
――いえいえ。ラスト様のお手を煩わせるまでもありませんな。
男はゆっくりとかぶりを振った。
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