10
そう決めたディックは、魔剣を構えて魔物達に向かって駆け出した。
その様子を、リタが洞の中からそっと覗く。
《ギェェェェェ!》
けたたましく、一斉に鳴き出した魔物達がディックに襲いかかる。その攻撃を避けながら、
避けるついでにディックは魔剣で切り裂いた。まるで玩具を破壊するように、
いとも簡単に頭を砕いていく。砕けた頭部からは、薄い色の結晶が転がり出てきた。
――やっぱり頭だな。
ディックは骸の中で、魔剣を振るい続けた。次々と魔物達が崩れ去っていく。
小さな姿では適わぬと見たのか、骸達は一斉にディックから距離を取った。そして、
彼の見ている前で次々と身体をくっつけていく。やがて、見上げる程に巨大な骸となった魔物は、
《ギェェェェ!》
と、威嚇するように大きく鳴く。ビリビリとリタの鼓膜が揺れ、その音波の痛みに、
リタは頭を抑える。痛みを抑えながら、そっとディックの様子を見守った。
大きく嘴を開き、鳥の骸がディックに襲いかかる。跳躍してその攻撃をディックが避ければ、
嘴が深く地面に突き刺さった。リタがそれを見て息を呑む。
――あんなの、当たったら死んじゃう!
ディックが骸の頭上に飛び上がり、魔剣を構えて振り下ろす。
頭部を守るように、鳥の骸が音を立てながら首を伸ばした。ディックの魔剣は首を切断する。
陶器が割れるような音を立てて、鳥の頭がその場に落ちていった。切断面からは、
骨が軋む音を立てて新たな頭が生えてくる。そして、転がった頭は鳥の腹部にくっついた。
《ギェェェェ!》
二つの頭は鼓膜を揺さぶる鳴き声を上げる。音を立てて首を伸ばした、腹部の頭が嘴を開き、
ディックへと襲いかかる。それを、身を捻って避けたディックへ、今度は上の頭が襲いかかる。
それを見たディックは、すぐさま魔剣を振り上げてその嘴を防いだ。腹部の頭が、
叫びながら首を伸ばす。
「危ない!」
リタが手に汗を握りながら叫んだ。一方でディックは慌てることもなく、長い足を振り上げ、
その嘴を蹴り砕いた。巨大になった所で、所詮は骨だ。力を入れれば簡単に砕ける。
そして、その奥にきらりと輝く、大きな結晶が見えた。一匹一匹が合体したことで、
魔力結晶も大きくなったらしい。ディックは力を入れて、剣に噛み付いている鳥の嘴を振り払う。
そして、魔剣を構えた状態で、鳥の巨大な骸から距離を取った。
《ギェェェェ!》
骸が再び声を上げる。腹部の頭は、音を立てて嘴を再生していた。
ディックは剣の切っ先をそれに向けて、地面を蹴り飛ばすように勢いを付けて、骸へと突っ込んだ。
赤い刀身に、ぼんやりと赤い光が纏い始めた。ディックは魔剣の持つ魔力をその刀身に纏わせた状態で、
再び地面を強く蹴る。巨大な骸の頭上へと飛び上がった。
――ここまで見られているんだ。もう隠す程でもないだろう。
ディックは空中で、魔剣を大きく薙いだ。
「血石の槍」
槍の形をした赤い光が、雨のように骸に降り注ぐ。頭部も羽も足も、全ての骨を切り裂き、砕いていく。
そして、その落下する勢いのまま、ディックは鳥の骸を一刀両断した。地面に降り立ったディックを中心に、
体は真っ二つに倒れ込んだ。ディックの足元には、二つに割れた魔力結晶が転がっている。
やがて、骸は黒い塵となって消え去った。ディックは魔剣をひと振りして、
ゆっくりと鞘に収めた。そして、リタの隠れている木の洞に目を向ける。
「もう、出てきて大丈夫だよ」
そう声を掛けると、リタがゆっくりと洞から出てきた。ディックを見つめていたが、
やがて足を引きずるようにして駆け寄ってくる。その顔には笑顔を浮かべている。
その明るく無邪気な笑みは、ティナとあの少女を彷彿とさせるものがあった。
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