02
小首を傾げるティナに、オボロが続けた。
「ティナちゃんは、お店の手伝いがあるじゃないか。お皿十枚割っちゃったから、
この一週間はお店のお手伝いするって、約束しただろう?」
「した、ですの」
オボロの言葉に、ティナは頷いた。
「じゃあ、ティナは留守番だな」
ディックがそう言って、懐からコーヒー代をテーブルに置く。
「一週間くらいで、戻ってきます」
「ああ、宜しく頼むよ」
扉が閉まった。ティナが窓の向こうに見えるディックを、目で追いかけた。
すぐに壁に隠れて見えなくなってしまう。テーブルを拭いていた布巾を握り締め、
ティナが足元に視線を落とす。
「ティナ、いきたかった、ですの。でも、やくそく、した、から、まもる、ですの」
そんなティナの肩に、オボロが静かに手を置いた。見上げるティナに笑いかける。
「ティナちゃん。お皿割っちゃってから、今日で三日目だけど、頑張ってくれているしね。
今日はおやつにプディングをあげよう」
にっこりと笑うオボロに、ティナが飛び跳ねて、両手を上げて喜んだ。
それを見て、「うんうん」と頷くオボロには、彼女を甘やかす嫌いがあるらしい。
◆
ギルクォードの町を抜け、一人で歩いていたディックは、オレアンまでの行き方を思い出していた。
まずはルクレール鉱山を横切り、その先にあるベルボーンという町を目指す。そして、
そこから少し歩けばオレアンだ。ルクレール鉱山からベルボーンまでには少し距離があり、半日は掛かる。
耳障りな囀りが聞こえてくる。変わった鳴き声だなと思いながらも、
とりたて興味を引くようなものでもないので、そのまま前方だけを見て歩き続けた。
鉱山を抜けて、その向こう側に通じるつり橋を渡ればボルマー地方へ辿り着く。
その吊り橋の下には、激しい勢いで川が流れている。吊り橋は少々古く、縄は解れ掛けているように、
繊維が飛び出しており、足場である木の板もまた、不安を煽る。苔が生えていたり、
板の外れている箇所があったり、穴が空いていたりする。風に揺れる度に、ぎしぎしと軋む音を立てていた。
その嫌な音は、今にも落ちそうな予感を抱かせた。しかし、予感がしただけで、
吊り橋が崩れるようなことはなかった。吊り橋を渡り終えた先には、今にも倒れそうな木の看板があった。
風雨に晒されて酷く読み難いものの、どうやらこの先がベルボーンに続いていることを、示していた。
根元が腐っていて、側に生えている木の幹に、まるで立てかけているようになっている。
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