02
エドワードの両親は、彼がまだ十歳の時に亡くなった。二人で、知り合いの貴族の元へと出向き、
その帰り道で、魔物に襲われたらしい。魔物ハンターが何人もいたが、彼らも手痛い反撃を食らい、
数人命を落としたという。魔物ハンター達は、必死に両親を救おうとしていたが、
その努力も虚しく、息を引き取ってしまった。
遺体の損傷は激しく、エドワードは結局その姿を見ることも出来ずに、そのまま墓へ収められた。
両親を同時に失ったことは、その幼い心に大きな傷を産んだ。
そして、当時の幼さを考えれば当たり前だが、その頃エドワードは、土葬される両親の顔を、
最後まで見ることが出来なかった。そして、そのことに憤りを覚えたものだ。
しかし、それが発端だったのか。まるで仕組まれたことのように、親類縁者に至るまで、
次々と命を落としていき、遂にホーストン家の血筋は、エドワード只一人となった。
その為、世間的な風当たりや同じ貴族であっても、陰口を叩かれることも多くなり、
エドワードは一人。広すぎる屋敷に、篭るようになっていた。
そんな自分を、見捨てることもせずに、ずっと支えていてくれたのが、クロードだ。
エドワードはクラウディア達と一緒に歩きながら、応接間へと案内するクロードの後ろ姿を見た。
いつ頃から、彼らが此処に来たのか。エドワードはよく覚えていない。それでも、ふと気付けば、
既にクロードやアリス、セオドアは隣にいて、公私共に支えてくれていた。薄らとした記憶の中では、
老執事が一人いたような気もしたのだが、霞の中にある影のように、ぼんやりとしていて定かではない。
「こちらで御座います」
クロードが微笑みながら、応接間の扉を開いた。落ち着いたインテリアの大きな部屋に、
幾つかの調度品が立ち並ぶ。その赤い二人掛け用のソファーへと、ウェンライトとクラウディアは腰を下ろした。
その前にあるソファーに、エドワードが着席する。
「失礼致します」
銀色の髪を二つに結ったメイド――アリスが、ティーセットをワゴンで運んできた。
そして、丁寧に紅茶を注いでいく。先日仕入れ直したものだ。
あまり癖がなく、すっきりとした味わいで飲みやすいものだった。クラウディアもウェンライトも、
酸味が強かったり、独特の苦味が残ったりする紅茶は苦手である為、彼らが来るときは必ず、
この紅茶を用意していた。そして、アリスは簡単なお茶菓子を一緒にテーブルに並べ、一礼した後。
音を立てずに、本当に静かに退室した。
「いよいよ、再来月には洗礼の日ですね」
エドワードがそう切り出すと、ウェンライトは頷いた。
「ええ。洗礼の日が終われば、ディディはもう立派な淑女です。
いつでも、こちらに向かわせますよ」
「そうですね。僕もそれが、とても楽しみなんです」
そう言いながら、エドワードがクラウディアにそっと微笑みかける。
紅茶に口を付けていたクラウディアは、その微笑みを見て、小さな微笑で返した。
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