02
「しっかし、ここん所依頼も入ってこねえし。平和だよな」
「少し前まで、頻繁に魔物がいたもんね」
オボロが洗い終わったコップを拭きながら、リアトリスの言葉に乗っかってくる。
「でも、それは有難ぇよ」
「魔物ハンターとして、平和だって思うから?」
オボロが尋ねると、リアトリスは苦笑した。
「んー。まっ、それもあるけどさ。おいら、寒ぃの苦手だから。
あんまり外出たくねえんだ」
申し訳なさそうに笑うリアトリスに、オボロが小さく笑い返す。
師走も、いよいよ終わりとなった今日。
ヴェステルブルグ全体で、人々は今年も無事に、一年乗り切れたことを感謝し合う。
そして、悲しいことに魔物や病などで、死んでしまった者へと、祈りを捧げる。そんな習慣があった。
陽がとっぷりと暮れた夜に、小さな天灯に、蝋燭やランタンを付けて、一斉に空へと上げる。
その火は、死者の魂を表しており、それを空へ放つことで、彼らの冥福を祈り、天へ次の年の無事を祈るというものだった。
その為、夜になれば夜空には橙色の灯りが多く灯り、非常に幻想的な世界を作り出す。
この日は、その天灯祭りの為にどこの店も早々と店を閉める。ディックは六年前にこのような風習を知った。
リアトリスは、ル・コートにいた頃は何度かしたこともあるらしいが、魔物ハンターとなってからは、
殆どしていないらしかった。
「懐かしいなあ。ディックも、したことあるだろ?」
リアトリスはスプーンを咥えながら尋ねる。上下にスプーンが動く様はどこか間抜けだ。
「俺は、ギルクォードに来た年に一回だけ。あとは、時計台から見ているよ」
そう答えたディックに、リアトリスは「……へえ」と頷く。そして、シェリーのことを思い出した。
今の所、大きな異変などは無いので、彼女のもとへは行っていない。行くこともないだろう、
そうリアトリスは考えていた。何かあればすぐに気付くのはディックであり、彼は些細なことでも、
すぐにシェリーと話しているのだから。そして、普段からシェリーのもとにいるのも、ディックだ。
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