04
「ラストの魔力は封印を破って、少しずつ漏れ出している。純粋に力を見れば、俺達よりもずっと、
魔王として相応しい。そんな奴の魔力が、周囲に漂っているんだ。生存本能を揺さぶる程の力を感じた、
弱い魔物達は元々の住処を捨てて、少しでも離れようと北から下っているんだ。この辺りにも、
その影響は出初めていたんじゃないか」
「……魔物が逃げてきた影響で、この数年平穏を保っていた、近隣の村や町が崩壊している。
そして、この時計台付近に魔物だけではなく、人間ですら寄ってくるようになった」
「だろうなあ」
オズバルドは、再びキャンディーを咥える。
シェリーを襲っていた、オズバルドの重厚な魔力が薄れて消えた。
「しかし、何故今になって奴の封印が解け始めた。魔王が命懸けで施した封印だ。
少なくとも、あと百年、二百年はそのままだと思っていた」
「ラストの傍にいた、吸血鬼のこと、覚えているか?」
魔将ラストの右腕とも言われる魔物だった。数多くいた取り巻きや部下の中でも、
一番彼に心酔していた男だ。慇懃無礼な態度、貼り付けたような作り笑いが、印象的な男だった。
「この二百年間。あいつは色んな魔物と闘っていた。そして、それがどんなに貧相なもんでも、
せっせと魔力結晶を集めていたんだ。セオドアという魔物と協力してな」
「……それで?」
と、シェリーは続きを促す。
「セオドアは度々、ラストが封印されている、ノーフォーク湖へと足を運んでいた。
そして、吸血鬼が集めた魔力結晶を沈めていた」
「……」
その二人の考えが、シェリーには読めた。魔物は他の魔物の魔力結晶を奪い、
その力を吸収することで力を上げる。きっと、ラストに封印を破るための力を与える為に、
魔力結晶を集めているのだ。
シェリーがそう気付いたことに、気付いたオズバルドは口を開く。棒付きキャンディーは、
だいぶ小さくなっていた。
「激しい戦いで、奴は力もかなり消費してしまっていたし、魔力結晶も殆ど破壊されてしまったんだ。
だから、抵抗することも出来ずに、封印された。そして、放たれた魔王の封印には、
魔王が今際の際に込めた、”ラストを封印する”という、命懸けの魔力が染み込んでいる。
封印された時の状態では、決してラストはその封印を解けない」
しかし、魔王がラストを封じたとき。魔王もまた、魔力結晶や力を消費してしまっていた。
だから、全てを懸けて封印したあと、魔王は死んだのだ。
「言うなれば、魔王の施した封印というのは、イタチの最後っ屁といったところだけどな」
そう繋げたシェリーに、オズバルドは苦笑する。
「そんな言い方すんな。封印したのは、魔王様だぞ」
「とにかく。そいつの働きのせいで、ラストは失われていた力を取り戻しつつあり、
その所為で魔王の封印が、解け始めているということだな」
失った力を取り戻すには、魔力結晶を奪うことが最善だ。
ラストが本来の力を取り戻せば、魔王の封印を破ることなど、造作もないだろう。
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