02


 ギルクォードの中心に、オボロとティナが向かうと、既に町中の人々で賑わっていた。
 荷車から下ろした木箱に、野菜が詰め込まれている。冬季には、収穫出来る食材が少なく、ルッコラやキャベツ、
 白菜といったものもあるが、殆どイモばかりだ。生きた鶏が詰められた箱もある。

 その人混みの中に見知った顔を見つけ、ティナが駆け寄った。

「リア!」
「ん、おお。ティナか」

 食材が大量に詰められた紙袋を、幾つも持ちながらリアトリスが振り向く。その傍では、
 食材を吟味しているグラニットがいた。いつになく険しい顔で、右手のイモと左手のイモを見比べている。
 次に商隊が来るのは、年を明けてから三週間後である為、今日のうちに良い物を、
 大量に買おうとしているのだ。

「リア、おかいもの、ですの?」

 最初は、グラニット達につられて、リア坊と呼ぼうとしたティナだったが、
 流石に年下に見える少女に、そう呼ばれることを嫌がり、リアトリスは「リア」と、
 そう呼ばせていた。

「おいらじゃなくて、おばちゃんがな。おいらは、荷物係」
「ディックと、おじさん、いない、ですの?」
「んにゃ。ディックはほら、あそこにいるよ」

 そう言いながら、リアトリスが顎でしゃくって見せる方向に、ディックがいた。
 人が多いが、その赤い髪は一際目を引くので、すぐに見つけられる。彼は、箱詰めされている、白菜を眺めていた。
 その両手には、リアトリスに負けず劣らず、大量の紙袋が抱えられている。

「おっちゃんは、店で夜の仕込み中。おう、オボロのおっちゃん」
「やあ、リア坊」

 手を上げて、挨拶を返すオボロに気付いたグラニットが顔を上げる。

「あら、オボロじゃないかい。あんたも買い物かい?」
「やあ、グラニットさん。今年最後の市場だからね。色々と買い占めておかないと。
ティナちゃんもいるから」

 その発言に、リアトリスは二人の話に口を挟んだ。

「え? おっちゃん、ティナに飯あげてんの?」
「だって、一人で食べているのもなんだし。ティナちゃん、好き嫌いなく、
全部残さず食べるんだよ」

 ねえ。と、同意を求めるオボロに、ティナは大きく頷いた。そうして大人達の話は、
 市場の話から魔物の話へと移っていく。立ち話をする中で、話題があちこちへ飛ぶのは仕方がないことであった。
 そして、顔見知りの多い場所での立ち話から、次々と話題に呼ばれ、会話に加わる人数も多くなる。

「そうそう。少し前に、クロズリーも崩壊したっていうじゃないかい」
「聞いた話じゃあ、北から魔物が下ってきているって話よ」
「ああ、魔物ハンターの人が言っていたなあ」
「北の町で、何か良くないことが起こる前兆だって」
「でもまあ、魔物が来てもこの町には、ディックもリア坊もいるからね」

 そこで、グラニットに言われたものを、買い揃えたディックが、こちらに戻ってきた。
 野菜の入った紙袋が三つ、干し肉の入った袋が二つ。卵にバター。これだけあれば、充分だろう。
 家と店の方で使っても、余りそうだ。

「それじゃあ、そろそろ」

 買えなくなっちゃうから。と、オボロはティナを連れて人混みの中へ消えていった。
 それを見送ったリアトリスは、

「さあ。ディック、リア坊。次は魚介類だよ」

 と、小太りの体を揺らして人の波を掻き分けていくグラニットを見て、
 ディックと共に苦い笑みを交わした。



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