03
陽が雲に陰り、空は少し暗くなる。昼を少し過ぎた頃だろうか。
ようやく、ディックとティナは、ウィットエッジへと辿り着いた。白い石の壁で外側を囲んでいる。
出入り口と思わしき場所の前に立つ。先端を鋭く尖らせた丸太を、幾つも縄で縛り上げたものを、
扉の代わりに付けていた。その横に木の板が嵌め込まれた窓がある。
ディックは、そこを強く叩いた。少しして、慎重に窓が開き、そこから酷く厳しい目つきで、
こちらを見つめる男の顔が見えた。そして、ディックを見ると、どことなくほっとした顔をする。
「ああ、あんたか」
「久しぶりです」
何度かこの村にも、魔物退治に訪れていることがあるので、門番の男に顔を覚えられている。
「魔物を駆除しに来ました」
数ヶ月ぶりに、ウィットエッジの中に入る。数ヶ月前と異なり、村の中はひっそりと静まり返っていた。
物音一つしない。全ての窓や扉には木の板が内側から打ち付けられ、外から入ることは愚か、
内側の様子も分からない。あまりの変貌ぶりに、多少違和感を覚えながら、
ディックはティナと一緒に依頼主の家へ向かった。
依頼してきたのは、ウィットエッジの村長だ。
しかし、村長の家とはいっても、他の村民の家と造りはなんら変わりない。
質素な石造りの家の扉を叩くと、白髪の多い、疲れた顔の男が現れた。彼が村長だが、
数ヶ月前よりもずっと老けて見える。
「ああ、あんたさんか。今日、来て下すったということは……」
「はい。依頼のことで」
と、返答しながら、ディックは封書を男に渡した。
「……ああ、ここで立ち話もなんです。中に入って下せえ」
村長に招かれて、ディックとティナは部屋の中に入った。窓も全て締め切っていたが、
隙間風が多いため、室内は冷え込んでいる。村長は部屋の中央にある炉に、新たに薪をくべた。
「今日は、さみぃ中ありがとごぜえます」
暗く落ち窪んだ目と、増えてしまった白髪の量から、彼が酷く疲弊しているのは、目に見えて分かる。
酷く質素な椅子は、ディックが腰を掛けると小さく軋む。ティナが興味深い顔で、
炉の中で爆ぜる火の粉を見ていた。ティナを気にしながら、村長が話し出す。
「一週間くれえ前のことでごぜえます。もともと、裏の山には魔物が住んでいたんですが、
弱い魔物ばかりで、村を襲うことも無かったんです。それが、ある日突然魔物達が、山を下ってきて……
おら達村人には目も呉れずに、村を横切ってどっか行っちまったんです。まるで、何かから逃げるように。
それから、一週間も経たねえうちに、」
と、村長は溜息を吐いた。
「村の子供が一人、山に入ったんです。そうしましたら、いつまで経ってもその子が戻って来ねえんです。
村の若ぇ連中連れて、その子供を探したんですが、全然見つからんのです。それからです。
次々と、村の連中がいなくなるんです。……そんで、みんな怖くなっちまったもんで、
もう誰も家から出ようとせんのです。それでも、被害は減らんのです。昨日も、一人いなくなっちまって……」
「村の人が消えたのは、魔物の仕業だと」
「それしか、考えられねえんです。このままじゃ、村人はみんないなくなっちまう。
おら達、どうすりゃええのか……」
頭まで抱え始める村長に、ディックは「分かりました」と頷いた。
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