07
「そうね。挨拶に来ただけなのに、斬り殺されるのも割に合わないもんね」
そして、スキップをするような弾みを付けて、ディックから数歩距離を取った。
「アタシは、アベリー・エアハート。此処に来たのは、知り合いにちょーっと頼まれ事をされたからよ。
本当、人使い荒くて困っちゃう」
芝居掛かったタイミングで溜息を吐いたアベリーは、
「あ、でも、魔物使いって言った方が正しいのかしら」
と、顎に指を当てながら小さく呟く。しかし、すぐに笑い声を漏らした。
「そんなこと、どっちでもいいわね。まあ、それで? アタシとしては、面倒臭いし、
本当は嫌だったんだけどぉ」
くるりとその場で一度回った。
そして今度は、小鳥のようにとんとんと弾みを付けて、ディックに近付いた。
「だけどぉ、彼ったら怒るととても怖いから、だから此処に来たのよ」
「彼って、誰だ?」
リアトリスが尋ねると、無邪気に微笑んでいたアベリーは一転し、
酷く冷たい視線で鋭く睨み付けた。
「アタシ、今お兄さんと話しているの。人間が口を挟まないでくれる?」
その言葉に、「はあ?」と眉を顰めるリアトリスを手で制し、ディックはアベリーを見下ろした。
「それで、要件は?」
するとアベリーは、童女のように、無邪気な笑顔を見せてくる。
「この町にシェリーがいるでしょ。その人に会いたいの」
「シェリーに何の用だ」
低い声で尋ねたディックが、赤い剣の先をアベリーに向ける。
向けられた剣の切っ先を右手で掴み、アベリーはゆっくりとその先を、そっと自分から外していった。
「だから、そんな怖い顔しないでよ。ただ、挨拶を頼まれただけだってば。
シェリーに攻撃するつもりなんて、無いんだから。それが済めば、とっととこんな田舎町出て行くわよ」
「……シェリーを呼び出そうとして、魔物の大群を放ったのか?」
そう尋ねると、アベリーはけらけらと笑う。
「やあだ。アタシ、あんな三下共知らないわ。勝手に怯えて逃げ出していっただけよ。
ねえ、お兄さん。アタシもそんなに暇じゃないの。だから、ねえ。そこどいてくれる?
素直にどいてくれないとぉ……」
鋭く伸びたアベリーの腕が、鋭利な鎌へと姿を変えた。それでも、ディックは答えない。
アベリーの鎌は、どんどんと伸びて湾曲し、ぐるりとディックの首を囲んだ。
その距離はほんの僅かだ。ギリギリ触れるか触れないか。しかし、ほんのちょっとでも動けば、
鎌が首に食い込んで血飛沫を上げるだろう。
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