05
その重量感のあるライフルの銃口からは、絶えず火花が放たれている。
リアトリスは、魔物の目や脳天を確実に打ち抜いていた。大きな声を上げて、
魔物が次々とギルクォードに倒れ伏し、魔力結晶を残していく。
「リアトリス!」
「おう、ディック!」
そう言いながら、リアトリスは牙を向けて地上へ向かってくる魔物に、弾丸を叩き込む。
しかし、殆どの魔物はギルクォードには目も呉れず、空を横切っていた。
「なんかこいつらおかしいんだ。襲ってくるのは、数えるくらいで、殆どあんな感じなんだぜ」
リアトリスは、こちらに敵意を持って襲ってくる魔物だけを攻撃していたのだ。それでも、数は一向に減らない。
四、五体程の細長い魔物が一斉に口を開けて襲いかかってくる。ディックが剣を振り上げて、
五体同時に斬り裂いた。しかし、頭部を切り落としただけでは、始末出来ない魔物もいる。
切り口から、新しい体が生えてくるのだ。確実に殺す為に、ディックはゆっくりと落下する五つの頭部を、
無言で両断する。そして、残った体の部分も解体した。冷徹な瞳で、それらを鋭く見据えれば、
頭部や肉体は塵へと変わり、魔力結晶だけがそこに残った。
大きく咆吼しながら、こちらに向かってくる異形の魔物達に向けて、ディックは剣を構える。
そして、意識を剣へと集中させた。徐々に剣の赤い色が、輝きを増していく。その刃にぼんやりと、
赤い光が纏ったのをリアトリスは見た。
「血石の槍」
ディックがそう言いながら剣を震えば、槍のように鋭く尖った赤い光が、魔物の群れへと突撃していく。
魔物の肉を次々と抉るように光が切り裂くと、夥しい鮮血を撒き散らしながら、ばらばらに砕けた魔物が、
次々と地上へと降り注いでくる。白いものも見えた。骨だろう。小刻みに震えて、
痙攣を起こしていた肉の動きが止まれば、それらは黒い塵となって霧散していった。
「あ……?」
あれだけ群れていた魔物が、一匹も見当たらないことに、リアトリスは気付く。
地上で魔物を駆除している間に、全ていなくなった。どうやら、本当に何かから逃げているだけのようだ。
それでも、こちらへ攻撃を仕掛けてきたのは、逃亡よりも魔物の本能に従った奴らなのだろう。
「なんだったんだ、今の」
不審に思いながらも、リアトリスがライフルを背負う。そして、ディックの剣に目を向けた。
「それ、普通の剣じゃねえよな。何それ」
「シェリーからの贈り物……リアトリスの、その白い布と同じ道具だよ」
リアトリスは頷きながら、新たな疑問をぶつける。
「魔物から受け取ったってことは、ちゃんと処理してねえ代物だろ?
なんで、持てんだ?」
魔物の攻撃を受ければ、その傷口から毒素が体内に入り込み、人間の体は簡単に壊死、そして壊疽を引き起こす。
魔物の魔力や魔法というのは、それだけ人間にとって危険なものだ。その毒素というものは、
魔物本体から剥がされた毛皮や、牙や爪にも染み付いている。魔物の意思によって、
その毒素の加減というものは出来るものの、自分の身体を傷つけた、人間への憎悪や悪意が篭ったその道具は、
そのままでは人間には扱えない。憎悪や悪意と、魔物の持つ魔力の毒素が混じり合い、
触れた箇所から身体を破壊してしまうためだ。それ故に、魔物の一部を使って作られた道具は、
ちゃんと人間が利用出来るように、魔物ハンターの道具班によって処理される。
「ディック」
尚も問いかけようとしたリアトリスを、ディックは翡翠色の目でじっと見つめ返す。
その冷たい眼差しは、一切の質問を受け付けない。答えないといった意思を感じさせた。
同じ人間である筈なのに、背筋を凍らせるような悪寒を感じさせる。それはまるで、
初めてシェリーと対峙した時を、彷彿とさせた。一瞬にして、じっとりとした冷や汗が背筋を伝う。
「悪い、忘れてくれ……」
そう言うのが、精一杯だった。
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