(先生)
目が覚めた先に幽暗の世界が広がっていた。目が慣れるに従って視界が開き始める。薄ぼんやりとした視界の中目にした物は、首の欠落した己の屍であった。そうして一つ思い做す。私は今うつし世から離れ、隠り世の人間となったのだと。
ただ虚空に浮かぶ身体は、もう誰の目にも映る事は無いのだろう。もう何にも触れる事は無いのだろう。
残酷にも、何も告げずに遺して来てしまったあの子達は、今でも私の帰りを待ってくれて居るのだろうか。最後まで心配をかけまいと、辛い思いをさせまいと、黙って逝った私は単なる卑怯者なのかも知れない。
あの子達の泣き顔を見たく無いと、私の我が儘があの子達を苦しませているなら、なんて罪深い事をしてしまったのか。
そんな悔恨に涙した所で今更過ぎる。だけど、己の罪に目を閉ざしたまま成仏なぞ出来はしない。
会いに、行かなければ。あの子達に。
こうして辿り着いた先は三人の泣き顔とひたすらに途切れぬ嗚咽であった。
先生、と呟かれた言葉にどうして答える事が出来よう。
震えた肩すら抱く事は出来ない、まして頭を撫でてやる事すら出来ないのに。
こうして自分の無力を悟り、改めて罪を噛み締めるのだ。
私は、この子達にただ笑顔で居て欲しかった。いつも眩しいくらいの笑顔を見るのが好きで、大好きで。
それなのに最後の最後にこんな悲しい顔をさせてしまった。ああ、私は本当に教師失格ですね。
許されるなら、私は貴方達の先生だけで無く父親にもなりたかった。それ程に貴方達の事が大切で、護って生きたいと思ったのに。ごめんね。それからありがとう。こんな私を慕ってくれて。
「さようなら、私は本当に幸せ者、でした。」
片言隻句に込められる託言。己に対する怨嗟は心を蝕み、毒して行く。足掻けど足掻けど最早詮無かりけり。贖う事が出来るものなら、権化となりて未だ止まぬ泣き声にどうか終止符を打たせて欲しい。
祈る願いはただ虚しく闇に溶けて、落ちる雫すら誰も気付かぬままに頬を濡らして儚く散って終った。
無色透明の雫
(光無くして孤独に泣く。
独り黙して鼓動は無く。)
松陽世界誕生祭「玉響の、」提出