福音 side K | ナノ






福 音
side K






(1)


「カオル、お前にメールが届いてるぞ」
「メール?」

今日一日の業務を終え、上司から入れ変わりざまにそう言われた。
それに、俺は首を傾げる。

普通、航行中のメールは緊急時にしか届けられない。
何しろこの船は人類未開の地を先陣切って航行するものだ。
メッセージなんて、まず持ってくることに苦労する。

「お前の部屋に置いてある。内容によってはお前を降ろさないといけないだろうし、確認したらすぐにこちらに来てくれ」
「……分かりました」

それはつまり、身内に不幸があったかもしれないと……。

嫌な予感がして、俺は足早で自室に戻った。
机の上を見れば、上司の宣言通り、茶色い封筒。
中には、黒く小さなカード。

俺はテレビにそのカードを入れ、再生ボタンを押した。






(2)


『カオル、久しぶり』
「……ルナ?」

画面に現れたその女性に、思わず素っ頓狂な声が出た。

航行中のメールは、全て連邦軍のチェックを受けた後に届けられるか否かを判断される。
もちろんその中身を直接見たりはしないが、事前に送り主からその内容の確認は取るはずだ。

軍の管理局に認可され、ようやく危険地帯を抜けて届けられるほどのメール。
故に身内の不幸がその内容のだいたいで、メールが届いて喜ぶ奴はあまりいない。

だから俺も、てっきりその類いの物かと思っていた。
なのに、現れたのはルナだ。
驚くのも無理はない。
だいたい、戸籍的にまだ家族でもない女性からのメールがなぜ管理局に認可されたのか……。

一瞬仲間内で何かあったのかとも思ったが、その割にはルナの表情は晴れやかだった。

それでも緊張は解かずにソファーに腰掛ける。
何だ、一体。
ハワードがまたやらかしたのか。
何をだ。

『ええと……何て言えばいいのかは分からないけれど……。単刀直入に言います――』

素直に何も考えず話だけを聞いていればいいのだろうが、つい考え込んでしまう。
物心つく前からの癖だった。
けれど、これほど先も見えない話も珍しい。

ルナは、幸せそうに頬を染めていた。

『あのね、私――』

その内容に、俺は目を見開いた。
情けないことに、それからはしばらく固まったままで。
告げられた言葉の意味を、何度も何度も、咀嚼するように繰り返し考える。

次いでゆるゆると、緩慢な動きでカードの入っていた封筒に手を伸ばした。
ひっくり返して裏を見てみれば、“おめでとうございます”の文字。

誰だ、こんなことを書いたのは。
by Administration Bureau――管理局の連中か。
つまりこの報せの内容をルナから聞いた奴らが、そろってこんなサプライズをしたわけだ。

「――……」

口元がゆるむ。

“おめでとうございます”

そうか、そうなのか。

(人の親に、なるんだな……)

一時は全てに無気力になり、生きることも惰性の様な物であった俺が。
人の縁に導かれ、家族を持つ。

旧家に生まれ、幼い頃から徹底的にしつけられた。
暖かい人間を信じず、差し出されたその手を振り払い、そうでなければ自分の今までの生き方は何だったのだと自問していた。

でも、そういう人間は世の中には確かに存在していて。
これまでの人生で、俺は二度巡り会えた。
そして多分、その存在は三人目――

感謝しよう。
まだ会ったこともないのに、思うだけで幸せにしてくれる君。

精一杯愛そう。
不器用で、滅多に会えないだろうけれど。

俺にとっての光。
君はもう既に、遠く離れた場所で行き着いているのだ。







あとがき


ま さ か の で き こ ん

いや、この二人はほんとマイペースなイメージがありまして…
あははははは……

ちなみにカオルさん、最後妙に語っとりますが最終的にはダメパパになっとります
詳細は連載、“光の子”にて!(宣伝)


□ 追記 □
PCで見たときの背景画像は「ユキヤナギ」
静かな思いと言う意味らしいです。
ぴったりだったので、思わず発表。








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