お日さまの香り | ナノ








お日さまの





人一倍、頑張ってくれている。
とてもさりげなく、みんなを助けてくれる。

食料の収穫率も飛び抜けて高いし、みんな口には出さないけれど、頼りにしている。
それはルナだって同じだ。


でも、人一倍頑張ってくれているのだから、人一倍疲れている。
当たり前のことだ。

彼はいつだって涼しげで、疲れた様子はもちろん、眉一つ動かすことすらめずらしい。

だから、わかりにくいけれど。
とても、気づきにくいけれど。


疲労は、溜まる。
人間なのだから。






(1)


大いなる木の下というのは、かなり涼しい。


湖から来る風は冷涼として、若葉の香りを含んでいる。
さわさわと葉がゆれる音にも、涼しい木陰にも、癒されて。

あの大きな幹にもたれかかれば、ハワードではないけれど、とても気持ちがいいのだ。


そして彼は、疲れていた。
それはもう、どろどろに。
そのはずだった。


だから、その光景が全くもってあり得ないものだなんてことは、決して言えない。
むしろあって然るべきだ。

それでもルナは、まばたきをひとつふたつ、繰り返した。


風が吹く。

その拍子にさらりとゆれる、黒髪。
閉じられたまぶたにかかるまつげは、けぶるように長かった。


こうして剣も無く無防備にしている姿は、ちゃんと年相応に見える。

ていうか、けっこう可愛い……。
前々から整った顔立ちだなぁ、とは思っていたけれど。


「カオル……?」


恐る恐る、名前を呼んでみる。
しかしカオルは起きる気配どころか、身じろぎ一つしなかった。


そう、彼は眠っていた。
大いなる木の幹にもたれかかり、スヤスヤと。


普段の彼からすれば信じられない光景だ。


カオルはいつだってクールで、器用で、自作の槍を片手に、ルナでは危なくてとうてい行けないようなところでもどんどん進んでいく。

そうして、みんなには危険と判断した場所は、言葉少なに遠ざけようとするのだ。
今まで誰も大きな怪我一つ無くやって来れたのも、カオルの力が大きい。

少なくともその姿に、隙なんて無かった。


でも、今の彼の姿はどうだ。
小さな子供みたいに、隙だらけ。
いや、これが十四歳の少年としてのあるべき姿なのだろうが……。


ルナはうーんと腕を組んだ。

彼の今日の仕事、魚釣りのノルマは既に達成されている。
竹で作った生け簀(これもカオルが作ったのだから、舌を巻くばかりである)の中には、確かに人数分の魚が所狭しと泳いでいた。


でも、相手はハワードではなくあのカオルだ。
ノルマを終えたからといって、そのまま仕事まで終えるはずもない。

少しでも余分に食料を得ようと、ずっと湖に張り付いているか、狩りに出かけるか、また新しく道具を作るか。
とにかく何かしていそうなものだった。


それなのに湖からカオルは消えているし、槍は家にあって外に出た形跡もない。
だから、何かあったのかと思ってカオルを探した。
ついでに、どうせならこの機にゆっくり休んで、と言うつもりで。


このサバイバル生活の半分はカオルで保っているといっても過言ではない。

ここで倒れられるより、今少し休んで英気を養ってくれた方がずっといいと言えば、さすがに話くらいは聞いてくれるだろう。
純粋に、心配でもあったし。


でも、どうやらその必要はなかったらしい。


ルナは、ふふ、と微笑んだ。

そのまま洗濯を終え、すっかり乾ききったシーツを竿から降ろす。
お日様の香りがした。


「お疲れ様。……いつもありがとう」


そうしてそっと、眠る彼の身体にシーツをかけた。






〜 END 〜








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