Please say ... | ナノ








Please say ...



(1)


別に、そんなことを言える人じゃないのはわかっている。

寡黙で、ストイックで。
まかり間違っても、ドラマにでも出て来そうな臭いセリフを気軽に垂れ流せるタイプじゃないもの。

一度ハワードに相談してみたらたら、気持ち悪そうな顔をしてスッゴく引いてたし (完全に人選を間違えたわ) (疲れてたのかしら、私)。
わかっては、いるのよ。


でも、さぁ……。


私だって、聖人君子じゃない。
不安になる時も、あるの。やっぱり。


特に私たち、いわゆる遠距離恋愛、なんだから。






(2)


「……どうかしたのか?」


カオルの、思わず小突きたいほどに整った顔立ちが、わずかに歪む。

私は、ボーッとその姿を見つめていた。


出会って、かれこれ六年。
三ヶ月振りの再会。
久しぶりのデート。


嬉しい。
確かに、嬉しい。
嬉しいんだけど――


『カッコいい……』
『やだぁ、何あれ。モデル? 芸能人?』
『声かけてみる?』


先ほど聞こえてきた女子大生たちのお喋りを思いだし、またむぅ、と眉が寄る。
だいたい、私がトイレに離れた少しの間にナンパされるってどういうことよ。

……いや、もちろん、カオルが悪い訳ではない。
女子大生たちもだ。


ていうか普通なら、こんなの怒る理由にもならない。
“彼女”ならばその程度、と鼻で笑えなければいけないんだろう。
けど――


心がキュッと痛む。
嫌だ、嫌だと叫ぶみたいに。


我ながら、情けないとは思う。
でも、それだけ私には余裕というものがことこのことに関しては、欠如していた。

なんてったって、普段の私と彼は何光年も離れた場所にいる。
互いの夢の為とはいえ、辛いものは辛い。
信じてない訳ではないけど、好きだからこそ、些細なことが気になる。


「――ねぇ、カオル」


だから、欲しい言葉があるの。
そういうことを言う人じゃないけれど。
わかってはいるけれど。


「……なんだ?」


カオルの瞳を見つめて。
思いきって、さぁ――



「Please say ...」



広い広い、街中で。
馬鹿みたいに臭いセリフを――







甘々のつもり。
ちょっとくらい夢見たって良いじゃない。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -