慈雨を降らせ | ナノ




雨風
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生きていれば人間、感傷に浸りたくなる時もある。
もう人間じゃないんだけどさ。

私は今すごく女々しい顔をしているはず。
破面にも感情はあるのかと実感した途端、私たちが正義としてやっていたことが、敵側にとっては悪であり、私たちも相手からすりゃあ破面なのかと思い知らされた。
同時に、仲間を失う遣る瀬無さに、昔の自分とグリムジョーを重ねてしまう。

「何見てんだガキ。」
「いてっ」
「………。」
「は!?痛っ、痛いんだけど!」

と勝手に一人思いに耽りながらグリムジョーの顔を眺めて、アレ?意外と顔整ってんだなーとか眉間のシワ深っとか思考が脱線し始めたところで、ピリリと感じる痛み。
ぼーっとしていた所為で痛みに鈍感になっていたが、一度口にすると痛くなるのは人の心理で、慌てて痛む場所を見ると、見事彼に二の腕を深々と切り傷を付けられていた。

「何してんの痛いんだけど。」
「マーキングだ。」

勝ち誇ったような笑顔で言い切った彼に一発蹴りでも入れようと足を振り上げたが、すぐ抑え込まれてしまってなされるがまま。
後ろから抱えるようにしているおかげで耳元に顔が近付いたグリムジョーが、一言。

じゃあな、ガキ。

だからガキじゃねぇって、そう言おうとした矢先、襟首を掴まれたまま遥か後方に投げ飛ばされて、しかも馬鹿力で思いっきり地面を滑って転がって、地味に痛い擦り傷を全身に作った、許さない。
霊圧を探れば彼は私を放り投げてすぐ、黒崎一護と朽木ルキアの元へ向かっていったようだ。

敵討ちにでも行ったのかとも思ったが、僅かな怒りよりも彼からは期待の方が大きく感じられた。
純粋に戦いを楽しんでいる。
黒崎たちの無事を祈りながら、痛みで熱を持つ体で走り出した。


破面だって、仲間をやられて悲しむものだと、グリムジョーを見て確信した。
彼らもまた感情を持つ個体であり、それぞれの信念を抱いて、生きているのだと、勝手に想像した。
もし違ったとしても、何故だろう、グリムジョーだけは嫌いにはなれそうにない。

だが、そんな考えも、曲がり角を曲がった先に広がる光景に消える。
グリムジョーと黒崎一護の激しい戦闘の、その隅に横たわった細い身体。

「あ、あぁ、ルキア…!!」

駆け寄ってその身体を仰向けにして、まだ生きていることを確認し、そばで涙を流す彼女の義骸を宥めた。

「大丈夫、助かる。」

頭が冷める。
結局のところ、破面も藍染に違わぬ悪だ。

ルキアを死なせるわけにはいかない。
白哉や緋真を悲しませることは、絶対にしない。
手伝って、と義骸に声をかけるとわかったピョン、と独特な返事を返された。
こんな状況下で少し和んだぞ。

早く手当てをしようと、ふと何も持っていないことに気付く。
義骸の服を千切るわけにもいかないので、自分の体を見下ろして、うん、仕方ないなと帯を解いた。
下に晒し巻いてるから安心しろ、まぁ巻いてなくても何もないようなものだがな!

一角先輩に負けず劣らずの派手な戦闘で壁や地面を壊しまくる騒音を聴きながら一通り応急処置を施して、ほっと一息吐いた。
夜中なのに近所迷惑よろしくと高笑いしたグリムジョーに覚える怒り。
あんたは強敵に出会えて嬉しいでしょうけどこっちは大切な友達傷付けられて腸煮えくりかえしそうで末代まで祟ってやろうかと本気で恨んだ。

「あれ?」
「どうしたんだピョン?」
「ごめん、ちょっとルキアお願い。」

片手あげて敬礼した彼女をひと撫でして、感じた嫌な霊圧の元へ、再び走る。
帯を解いたから死覇装の前がバサバサしてめんどくさくて、晒し一枚丸出しで走ってる姿は多分女としてまずい。

嫌だなって思ったものは当たるもので、見上げた先にいるのは、グリムジョーとその背後に立つ、かつての上司だった。
上司だなんて思ったことないけど。

「独断での現世への侵攻…五体もの破面の無断動員及びその敗死。
全て命令違反だ。」

グリムジョーの顔が怖い。
無断で現世まで来たということは、東仙は藍染の命令で迎えにきたのだろうか。
相変わらず藍染の従順な犬なこった。
歪められたグリムジョーの顔で、藍染が気に入らないんだなとわかる。
見るからに相容れなそうだし。

悔しいだろうな、藍染が上に立って涼しい顔して命令をして、それに従わざるを得なくなるのは。
だが彼の顔を染めたのがその悔しさだけではないのも、読み取れる。

現世に連れてきたの、大切な部下だったんでしょ。

勿論それに答える声はないが、私の視線を受けて、黒腔へ踏み込んで最後に一護に名乗った後、再び碧い瞳が私と交わって、彼の口が動く。

『 またな、琥珀。 』

聞こえはしなかったが、言葉は届いた。
出来れば会いたくなどないのだが、どうしてもグリムジョーのことを憎みきれないのは、やっぱり自分そっくりだからだろうか。
裂け目の閉じた空を睨んで佇む。
何を感じ取ったのか一匹の淡い光を放つ燕が肩に舞い降りたが、黙って叩き落とした。
何でさっき始解を解いたんだ馬鹿野郎、雨燕め。

「やだ琥珀さんじゃない。」
「あれ、乱菊だ。いつの間に。」

考えに耽ると周りが見えないのが悪い癖だな。
知らぬ間にそばに来ていた松本乱菊とその腕に抱えられたルキア、きょとんとする私に、乱菊は織姫に手当てをしてもらいましょうと器用に私の手も引っ張ってくれた。

あ、巨乳美少女。


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