慈雨を降らせ | ナノ




雨湿
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「先輩、酷いと思いませんか!」

バンバンッと己の先輩である斑目一角が肘を置く机を叩いた。
一角も、その後ろで椅子の背に腰掛ける綾瀬川弓親も、そして自分も制服を纏っている。
制服と言っても死神が着用する死覇装などではなく、制服なのだ。

そう、私は今現世にいる。

数日前まで私は空座町の隣の隣の隣町で後輩につきっきりで戦いの基本を教え込む教官役…と言うのは名ばかりで、平和でのんびりした虚討伐ライフを送っていたのだ。
その微妙に離れた町へ派遣されたのは、朽木ルキアが失踪するよりも前だったが故に、私は今回の尸魂界及び瀞霊廷の騒ぎには一切関わっていないし、詳しいことは知らない。

のだが、数日前。
近頃空座町の虚がやたら増えているからと呼び戻され、一通りさっきも言った尸魂界の騒ぎについて教え込まれて現世に投げ出された。
最悪である。

しかし、今現世に数人死神が滞在していることが、大匙一杯分くらい私の心を軽くした。
先輩がいるから愚痴り相手がいる。
彼のハゲ…じゃない、スキンヘッドを見てると心の憂鬱さも多少反射されていく気がした。

「災難だったね、琥珀。」
「どの口が言う!
原因の半分以上はあんた達なんですからね。」

この二人が現世に来なければ私だって現世に送られずに済んだものを。
理由は分かる。
阿散井恋次が一角たちを頼りにするのはよーく分かるが、いい迷惑だ。
もともと十一番隊は血気盛んで、どいつもこいつも戦闘狂であり、面倒ごとに首突っ込みたくなる質だし、寧ろ面倒ごと起こすやつらだっている。
その十一番隊を連れてきたってことはもう、これ面倒ごとじゃん。

「あーーー無理、帰りたい。」
「うるせェ、一人で帰れ。」
「帰れたら苦労しないってのこのハ…つるりんめ。」
「ハゲじゃねぇ!」
「ハゲって言ってない!ハァーってため息つこうとしたんですー。」

放課後で人がいないのをいい事に大声で不満をぶちまけてやる。
ちなみに私は今日転校してきた設定だ。
浦原喜助との感動の再会も憂鬱なこの先を思うと薄れてしまってよく思い出せない。
ただ義骸を渡され義魂丸を渡されそのまま学校まで行かされたのはよく覚えてる。
不満を隠しもせず無愛想に自己紹介した甲斐もあって、誰も話しかけては来なかった、万歳。

ただ愚痴垂れるのもつまんないので目の前にあるつるつる頭を叩きはじめると、ガラガラ、と教室のドアが開かれた。

「は?」

先に声をあげたのはドアを開けた張本人、目立つオレンジ色の髪をしたそこそこに顔付きが不良っぽい少年。
彼はゆっくりドアを閉めて、神妙そうに私たち三人の元へ歩み寄ってきた。

「何で一人増えてんだ?」
「…それ私が聞きたいね。」

まだ叩き続ける私の手を掴んで退けると、つるりんは不良少年に私を紹介する。

「こいつは俺たち十一番隊の四席、法雨琥珀だ。」
「十一番隊ってやちる以外にも女いたのかよ。」
「そうなんだよ、何でかいるんだよね。」
「琥珀は女じゃないからね。」
「ゆみちー先輩黙りやがれです。」

別になりたくてなったわけじゃない。
現世で言えば、そうだな、楽しんで運動やってたらたまたま実力がついてたまたま選抜されてしまった、みたいな。
別に楽しんで虚討伐やってるわけじゃないけど。別に。

「んで、こいつが黒崎一護だ。」

あぁ、なるほど!
道理でオレンジ頭に覚えがあると思った。
瀞霊廷を騒がせた旅禍が確かオレンジ頭の死神代行であったが、それが黒崎一護か。

「よろしく黒崎少年。」
「お、おう。…琥珀さん、でいいのか?」
「琥珀でいいよ。
今は同い年でしょ。」

手を出せば、彼は意外と人懐っこそうに笑って、手を握り返してくれた。
一角先輩やゆみちー先輩よりも手は若干やっこくてヤバい、私手綺麗じゃない、とかちょっと焦った。

放課後になってようやく自己紹介ってのもおかしな話だが、生憎今朝からずっと黒崎一護は虚の所為で学校に来てなかったのだ。
え?義魂丸があるだろって?
どうやら黒崎少年の義魂丸は特殊なようで、かなりのやんちゃらしくて、まぁ遊んでたんだろう。

「お前も破面…」
「違うぞ、違うんだ黒崎少年。」

別に私が大きな口開けて腹黒藍染が裏切った話を聞いている間に破面が現れたから急遽現世行きが決定していたわけではなく、元から虚討伐のために決定していたのだ。
ただ破面が来た事によって一角と弓親が一足先に現世に行き、私が上に急かされただけだ。

「琥珀はね、僕たちの面倒を見に来たんだよ。」
「見たくもない面倒ですね。
あー鬱陶しい帰りたい。」
「素直じゃないね。」
「いや素直すぎるほど嫌がってるように見えんだけど。」

黒崎少年、君が大正解だ。
本当に嫌だ。

「そう言えば琥珀、どこに泊まるの?」
「え?泊まり?」

短期じゃなくて長期だったのを忘れてた。
聞けば他の死神たちは泊まり先が決定しており、既に幾晩かお世話になっていると言う。
一角たちはこのクラスの浅野くんのお家に泊まっているらしい。
正直一日中この人たちといるのは嫌だ。

「ほ、他にどっかないですか。」
「井上さんの家に日番谷隊長と乱菊さんが泊まってるはずだけど。」
「井上さんって、女の子?どんな子?」

乱菊さんが泊まってるなら是非ご一緒したいが。
家主がこう、一角先輩みたいにうるさくちゃ堪らない…まぁ、先輩みたいな女の子いるわけないけど。
首を傾げて三人を眺めてると、一角先輩とゆみちー先輩がにやにやと笑い出して、黒崎少年も私も首が90度になるんじゃないかってくらい傾げた。ちょっと大袈裟に言いすぎた。

「安心しなよ。
琥珀の大好きなタイプの子だから。」

両手で顔を覆って天を仰いだ。
ばっちこい巨乳美少女!!


「だから言ったでしょ、女じゃないって。」
「おっさんだよあいつは。」
「死神って個性的なやつが多いんだな。」
心外である。


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