雨勢 2/2
こら、傷を負わせることは出来ましたかって聞くのはよせ。 どれだけ私が攻撃しようともまるで相手にされてないし、簡単に捕まえられるし正直しんどい。 傷なんて無理無理、男が着てる白い服を斬魄刀が掠めて切っただけでも大目に見てくれ。
戦う気が完全に失せてきてる。 お腹に穴空いてるの気持ち悪いし、何より私は見てしまったのだ、男の背中に存在感たっぷりに刻み込まれた数字を。
" 6 "
何を示してるのか全くもって分からないが、要は私たち護廷十三隊の隊長副隊長、そして官席の区分と同じではないかと勝手に思う。 そもそも破面って何体いるのだろうか。 いや数える気もないし数えたくもないし、数えても尸魂界の滅亡が近づくような気がするからしないけど。
現時点で空座町にいる破面は六体。 その中でこいつが6番なのか? だが探っても他の破面からこの男を越える強さを感じることないから、それはありえない。
「あんたの背中の数字、何の意味があるの。」
もやもやするから意を決して聞いてみた。 今の状況を整理すると、空中で私は襟首を掴まれたままジタバタするのすら諦めている。 さっきまでお前完全に出会ったやつは全員見殺しにするみたいな雰囲気出してたのに、何故私はこのままなんだろう。 殴られたり蹴られたりで私もそこそこボロボロなんだけどさ! 雨燕も勝手に始解を解いてやがるし。
首が絞まって仕方ないけど頑張って振り返って問うと、なんとお兄さんは意外にもちゃんと答えてくれる。 聞けば、破面には数字があり、No.11以下は生まれた順に数字をつけられているらしい。 No.11以下って、これいっぱいいるの決定したよね。 そして破面の中から特に優れた殺戮能力を持つ者が選抜され、能力の高い順に、No.1からNo.10まで番号が与えられる、と。
やっべぇ。 お兄さん冗談抜きで鬱陶しいやつだった。
「じゃあお兄さんはその"十刃(エスパーダ)"の、せすたってやつか。 ほへぇー道理で余裕な顔してやがる。」 「………。」
これでも精一杯戦ったつもりだし、十分首絞まってるから。 そんなに睨まないでほしい。 お兄さん顔近い。
「グリムジョー・ジャガージャック。」 「は?」
急に横文字を並べられてびっくりして上手く聞き取れなかった。 ジャガーなんだって?韻踏んでたな、たしか。 と、凄い力で頭鷲掴みにされて頭蓋骨がぎしって軋んだ音がする。
「あだだだだっうそうそ! グリムジョーってとこはちゃんと聞いた!」 「ガキ、名前は。」
強い順に上から数えて六番目ですって強敵の前で、限りなく歩兵に近い私が名乗るって、恐縮っていうか哀れっていうか。 蛇に睨まれた蛙状態でどうすることもできないから名乗るけど。
「じ、十一番隊…第四席、法雨琥珀。」 「…雑魚にしちゃァ、よく持ったな。」
だから言ったじゃん!哀れじゃん! 私なんか十三隊の内上から数えても下から数えても二桁なんだよ。 実力で言ったら下から数えた方が早くもなくもない気がしなくもない私がこんな規格外に強いやつ相手に敵うわけない。
ついでに言っておくが私は元九番隊で、十一番隊に入ってからの戦闘より、書類仕事の方が長い上に何度も言うが面倒ごとは嫌いだから余程のことがないと戦わない。 官席が決定してからも弓親とよく五席争いしてた。 そして私は今日、現世に来たばっかりで、いきなり戦闘とか聞いてない聞いてない、全力で戦えるわけない。
はぁ、と深いため息を吐いたその時、近い場所で、氷の柱が天高く築かれた。 考えなくても、あれはルキアの袖白雪だ。 あっと言う間も無く柱は弾け飛んで、それと同時に破面の気配が一つ、消える。
お仲間がやられたんじゃないの、いいの。 と軽口でも叩いて揶揄おうかなとか思って軽率にお兄さんもといグリムジョーの顔を見たことを、私は後悔した。
一瞬、ほんの一瞬だ。 彼の顔が怒りと、哀しみに歪んで、すぐにその感情を押し殺したのを、私は見てしまった。
「そういうの、ずるいし…。」
酷く懐かしい、そして情けなかった頃の、自分。
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