慈雨を降らせ | ナノ




雨風
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内なる虚って何だ聞いてないぞ。
口を挟もうにも憚られるこの空気の中で、私は井上織姫によって治療を施されていた。

黒崎一護とグリムジョーの戦いは生憎ルキアの手当てで詳しくは目にしていないので分からないが、確かに黒崎の放つ攻撃は、ただの死神の力ではなかった、気がする。
黒崎を鍛えたのは他でもない浦原喜助であり、恐らくやつも黒崎のその虚について知っていることはあるはず。
尸魂界を追放されたとは言え、死神である以上は虚やら破面やらと接触があるのは避けられないが、黒崎ともなれば喜助の負担は大きいだろう。

それにしてもいい乳だ。ああ、じゃなくて、すごい治癒能力だ。
傷だらけだった身体は瞬く間に元の何もない、綺麗な肌に変わっていく。

「あの…琥珀ちゃん、腕も。」
「ううん、腕はいい。」

二の腕に目立つ引っかき傷。
お前はどこの猫だよと言いたくなるが、これを残したのはマーキングだって言われたのに勝手に消しちゃ罪悪感を感じるっていうか、そんな理由だ。
大体無傷の状態に戻った頃に立ち上がって死覇装の埃を払って、阿散井恋次のそばに寄って、その背を力いっぱい殴った。

「ちょ、なんスか!」
「辛気臭い!」

破面は追い払った。
というか帰っていただけたってのが実のところなんだけど、それでも一時危機が去ったことには変わりない。
なのに何だこの体たらくは!

「内なる虚とか私は知らないけど、生きてんだから笑え。
あいつらがまた来るって分かってるんだから、前を向けクソガキども!」

今日一日でガキ呼ばわりされすぎたから八つ当たりしてるわけじゃない。
だって私からすればみんなガキだもの。

ぼけっとしてる黒崎にもう一発喝を入れると、漸くおう…、とまぁ気の抜けた返事だったが仕方なくそれで許した。
何が笑え、前を向けだ。
私は何一つできなかったくせに。

「琥珀さん、良いこと言うのは前しまってからにしてくれないスか。」
「忘れてた。
見たければ見ていいぞ?減るもんじゃないし。」
「減るもんじゃないつか、琥珀さんは減るものがないんじゃ」
「恋次そこになおれ!!」

確かにない!ないけれども!

「琥珀さんはこれでいいのよ。」

と、近くにいた井上織姫を巻き込んで私の頭に豊満な胸を押し付けながら抱きついてくる乱菊。
秒で鼻を押さえて隠した私を日番谷隊長にジト目向けてきたが、良かった危機一髪鼻血は出てない。

「この先成長するかどうかは知らないけど、今は体に見合ったサイズで丁度いいでしょ?
隊長もそう思いませーん?」
「俺に聞くな!」
「つまんなーい。
いつか琥珀さんも織姫くらいになりますよ。」

いや、ならんでいい。
寧ろ今みたいに両手に華っていうか両手におっぱ…あぁ、乳を持って揉んで生きていきたいなぁ、なんて。

「織姫、これからもよろしく。特に胸。」
「うん!よろしくね!」
「井上まともに相手にするな!」

にしても織姫の能力は興味深い。
詳しい作りとかその生態を知りたいとは微塵も思わないけど、これを藍染が見たら捨て置かないだろう。
殺されるか、その手の内に収められてしまうか。
何はともあれ、井上織姫という存在を隠しておくに越したことはないのだが。

「織姫、破面の前でその能力使ったりした?」

出来れば首を振ってくれ。

「えと、茶渡くんの腕を治したよ。」

「………ば、ばかやろう。」


全て手遅れ。


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