従兄であるうちはオビトは眩しく一途な人だった。
口を開けば恋い焦がれる少女の話ばかりだったが、照れくさそうにいつまでも語っていそうなオビトの顔を眺めるのも、趣味の一つだ。

だが弟を見守る姉のような気持ちは、いつしか恋以外の何物でもない気持ちに変わっていった。

「無名。」
「………。」
「……おい、無名?」
「ん…あ、あぁごめん…話の続きしよっか。」

名前を呼ばれる度にどくりと跳ねる心臓を無理矢理抑え込んで、切なく細められたオビトの目に魅入った。
ライバルであるカカシの話になると不貞腐れた表情になり、リンの話になれば頬を染めて遠くを見つめる。

本当に大好きなんだね。

愛おしげなその視線が自分に向いてくれたらいいのに、とささやかな醜い嫉妬が芽生えたこともあった。
だがオビトの隣にいるべきなのは自分ではなく、あの栗色の髪の少女だと分かっているから、自分の気持ちを打ち明けたことは一度もない。

もうすぐ沈んでしまう夕日の下、影を伸ばしてオビトの横を歩き、横顔をそっと覗き込む。
中身はまだまだ子どもなのに、整った顔立ち、昔よりも高くなった背で、改めて彼はもう子どもではないと思い知らされる。

「リンはカカシばかり見てる。」

ぽそっと零したオビトの不満は鳥の鳴き声すら聞こえない帰り道によく響いた。
そういうオビトはリンばかり見てるね、なんて言いたくても言えない。

「私はオビトのことずっと見てるよ。」

突然オビトは足を止めて驚きに目を見開きこちらを向いた。
呆気にとられた顔にぷっと吹き出して、言葉の続きを紡ぐ。

「ずっとオビトを見守ってるよ。
可愛い従兄を応援するのが私の役目だから。」

意味を理解したオビトは昔と変わらぬ眩しい笑顔を浮かべて、おう!と言って頭を撫でてくれた。
その手を取って、再び歩き出す。

「がんばってね、オビト。
カカシに負けちゃダメだよ。」

少し力の込められた繋いだ手をにぎり返して、目の前に広がるうちはの敷地に一歩踏み入れる。
二人きりの帰り道が恋人同士の甘い時間だと、ただの幻想だが、そう思いたかった。

好きだよオビト。
大好き。
あなたが死んだと聞かされて後を追ってしまうくらい、愛してる。




本当は知っていた。
真っ直ぐで暖かい視線も優しい笑顔も、繋いだ手から伝わる想いも。
あの頃は見て見ぬフリして、君がいなくなったと知って今更後悔した。

「……無名…。」

握り返してくれる手は、もう無い。


例えるなら愛、例えなければただの幻想

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